※弊社メールマガジン「ROCK’in MAILMAN」2008.7.4号〜2008.12.19号まで連載された、高山博さんによるコラム「東京音楽散歩」を再掲載しています。
第五回 中央線ぶらぶら歩き
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中野ブロードウェイ(掲載日時:2008年10月31日)
今回は、目的地を決めずに歩くことにする。どのあたりにしようかと考えたのだが、やはり東京で音楽といえばここ、中央線沿線にする。このあたりは、古くか ら文化の中心地、戦前戦後と武蔵野を愛する文人画家などが居を構え、沿線には美大や音大なども多い。さらに、60年代ごろからは、演劇やフォーク、ロック などの若者文化の発信地としても知られるようになった。私自身、大阪に居た十代の頃に、今中央線沿線が熱いとの噂を聞き、一体どんな所だろうと、見物のた めに上京したのを覚えている。今から考えると、その頃から音楽散歩をしていたのだ。
とにかく今回はまったくのアドリブ、特にあてがあるわけでもないのだが、“濃い”ので有名なエリア、まぁなんとかなるだろう。 というわけで、いつものようにリュウジくんと待ち合わせ。場所は、中野ブロードウェイの「タコシェ」にした。ここは、独特の品揃えで知られる本屋兼雑貨 屋。店内には、サブ・カルチャー関連の書籍や画集などが所狭しとならんでいる。音楽書も多いし、ニュー・ウェーブ、パンク系のインディーズCDなども置い ていて、見ているだけでも飽きることがない。
せっかくなので、中野ブロードウェイを散歩する。ここは、マンガ古書などを扱う“まんだらけ”が成功して以来、マンガ、同人誌、フィギュアなどのショップが次々に進出して有名になった。実際歩くと、やはりその手の店が多い。普通の学生服屋かと思うと、コスプレ用品店だったりする。別にその趣味がなくとも、店先を眺めながら歩いているとなかなか面白い。平日の昼間ということで、東京音楽散歩Vol.5さほど客数は多くないのだろうが、それでもまずまず賑わっている。よくオタク・ファッションなどと揶揄されるのだが、そういった外観の人にはあまり遭遇しない。むしろ、カップルの比率が高く、女性も多い気がする。こういうのは、実際に行ってみないとわからないことだ。
その中野ブロードウェイだが、元々は1966年に再開発で建てられた複合ビルだ。4階までは商業施設で、5階から10階がマンションになっている。当時と しては最新の高層マンションで、いわば今の六本木ヒルズのようなものだったらしい。青島幸男や沢田研二も住んでいたとのこと。ビルの裏側からは、その居住 階を望むことができる。なるほど、年月を経ているが高級感がある。屋上は庭園になっていてプールやゴルフ練習場もあるらしいが、住人でないと中に入れない のが残念なところ。
そんなことを思いながら店内に戻ると、今度は昭和風の意匠ばかりが目に入ってくるから不思議だ。一階の吹き抜けには、擬ロココ調の飾り窓やベランダなど、開業当時を思わせる装飾が、そこここにある。かつての最先端と、今のマニアックが、仲良く並んでいる。
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正直、中央線沿線は上京時から苦手な地域なんですが、諸事情で今年、中央線沿線に引っ越しまして中野も割と近所になりました。初めてとなる中野ブロードウェイでしたが、うーん、やっぱり苦手かなぁ。。。来週から、音楽スポットに出会える事を期待します!
Rock oN 担当 リュウジ
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国立でコンガボンゴ (掲載日時:2008年11月7日)
中野ブロードウェイを後にして、これからどこへ行こうかと相談しながら駅へと向かう。そういえば前回の国立音大編で、国立駅から行くものだと思っていたら違ったことを思い出した。
国立は、いわゆる中央線沿線の他のエリアとは、なんとなく異なる雰囲気がある。改札近くには、下校時間なのだろう、いかにも付属小学校、といった制服の少年が並んで歩いている。駅からは、まっすぐな並木道が伸び、整然とした街並みが美しい。ふと脇を見ると、英会話学校の看板、その名もビバリーだ。なんだか、とってもハイソなところに来た気がする。
国立の並木道を歩くのは快適だ。車道も広いが歩道も広く、実に歩きやすい。ただ、この気持ち良さはそれだけではない気がする。なんだろうと思っていたら、両側の建物の高さが低いからだということに気がついた。どの建物も、並木を超えないくらいの高さに押さえられているので、空がとても広いのだ。
しばらく歩くと一橋大学が現われる。一橋大学は、その名の通り元々神田一ツ橋にあったのが、関東大震災を期にこの地に引っ越した。80年の歴史を持つキャンパスには、武蔵野の木々が生い茂り、レンガ造りの重厚な建物が並ぶ。降り始めた小雨の中、黄褐色のレンガと樹木の深緑が、美しくけぶっている。入り口付近には、来月早々に開かれる大学祭の看板が大学らしい活気を見せる。そういえば、ここの兼松講堂は、音響が良いのでも知られるホール。今年もいろいろなコンサートなどが予定されているようだ。
ちょうどお腹もすいてきたので、学食に入ってみた。やはり安くて量が多い。普通の量でもちょっと食べきれない感じだが、周りを見ると、男子学生が二品三品ととって、モリモリ食べている。
大学を後にして、駅へと戻ろうとしたら、途中、雨が激しくなってきた。どこかで雨宿りでもと思って横道に入る。リュウジくんが、あんなのがありますよ、と指差すビルの4階に、パーカッション・ショップ「コンガボンゴ」と看板が出ている。
コンガボンゴの店内には、ラテンやアフリカのパーカッションが一杯だ。サンバで使う4弦のミニギター、カバキーニョも並んでいる。ショップ・オリジナルの楽器も多く、なかでも目を引いたのが、リバーブボンゴ。ボンゴとカホンの中間のような木製パーカッションで、中にスプリングが仕込んである。叩くと、ビヨーンとなんとも“宇宙的な”音がする。
不思議スペースサウンド、リバーブボンゴ。マスターすれば「サンラー的宇宙に近づけるかも??(mp3)
いろいろと見ていると、ちょうど、オーナーのPOKI(ポーキー)氏が、犬の散歩から帰って来られた。氏は、DJ、パーカッショニスト、MCなど、様々な活動をされている才人。とても気さくな方で、いろいろな楽器の奏法を実演してみせてくれた。いきなりの訪問だったが、実に親切に応対していただき、感謝感激である。こういうことがあるから、ぶらぶら歩きは面白い。
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偶然見つけたパーカッション専門店コンガボンゴさん。店内はパーカッションが所狭しと置かれています。僕ができるのは、せいぜいシェーカーを振るくらいなので、演奏を満喫できたとは言えませんが、大好きな方が訪れれば充実した時を過ごせるのは間違い無し。ぜひ、リバーブボンゴをお試し下さい。お店の方もとっても親切で、急な取材にも関わらずお世話になりました!
Rock oN 担当 リュウジ
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阿佐ヶ谷で看板ウォッチング(掲載日時:2008年11月14日)
ハイソな国立の後は、ディープな高円寺へと思ったのだが、一つ手前の阿佐ヶ谷に寄り道してみたくなった。阿佐ヶ谷には、以前所要で訪れたことがあるが、その際はクルマで目的地に行って帰っただけ。それでも、何か惹かれるものがあったのだ。
全く土地勘がないまま、駅を降りる。どっちに行こうかと迷っていたら、リュウジくんが、こっちがロータリーって書いてありますから、北口が表ってことじゃないですか、と教えてくれる。なるほど確かに北口ロータリーと書いてあるが、反対側を見ても南口ロータリーと書いてある。まあ、これもきっかけだと想い、北口から出てみた。
ロータリーの右側は、広い中杉通り沿いにスーパーなどが並ぶ明るい街並み。逆に左側はなんだか心細いような路地通り。スターロードと書かれた電飾が小雨に滲み、おいでおいでをしているようで、足は自然にそちらを向いてしまう。
スターロードは、中央線とほぼ平行に伸びる小路で、小さな飲み屋や雑貨店が続いている。入り口近くには、由緒正しそうな喫茶店「プチ」の看板。確かここは太宰治が通った店だ。少し歩くと「ラジオ屋」と書かれた暖簾。こちらは、様々なマンガ家が訪れるので有名な店だ。名前だけは知っていたのだが、ここだったのかと思って看板を見ると、永島慎二の猫の絵があった。
これは、面白いところへ来たぞと思いながら、どんどん歩く。「よるのひるね」「あるぽらん」など、趣味主張のありそうな店が次々に現われる。どこかへ入ってみたいのだが、先への興味の方が強い。さらに奥へと、ずんずん進む。駅から遠くなるに従って、店はまばらになるが、それでもなんだか面白そうな雰囲気は続く。よくある古いスナックかと思ったら、扉には演劇のポスターが何枚も重ねて張ってあったりする。そういえば、詩人で劇作家、路地歩きの達人でもあった寺山修司が入院していたのは、阿佐ヶ谷の河北病院だった、などと連想が広がる。
数百メートルも歩いただろうか、さすがに店も無くなり、住宅地のようになってきたので、引き返すことにする。今度は、中央線の南側を歩いてみた。こちらは、少し新しい感じの町並みだが、やはり駅の辺りはなかなか雰囲気がある。いかにも駅裏といった感じの横丁の共同看板に、ブルースバーの名前が混ざっていたりするのが楽しい。
それにしても、この街は面白い看板が多い。店自体が個性的なこともあるのだろうが、それをまた看板がうまくあらわしている。イラストや書き文字の面白さは、まるで街角アートのようだ。それに、そここに張られているポスターのユニークさも加わって、なんだかちょっとした野外美術館を歩いている気分になる。
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時間帯は、お店の開店前。夜の賑わいはこれからという感じでしたが、やがてディープな人種が集い出すのでしょう。それぞれのお店は、小さいながらも、”聞いたら凄いストーリー”が沢山埋まってそう。そんな想像をしながらの散歩でした。
Rock oN 担当 リュウジ
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阿佐ヶ谷から高円寺へ(掲載日時:2008年11月21日)
阿佐ヶ谷駅へ戻ってきたので、今度こそ高円寺だ。高円寺は隣の駅、電車で行けばすぐなのだが、どうやらそちらの方向にも、あやしい商店街が伸びている様子。駅前の交番で聞いてみると、徒歩20分くらいらしい。雨も小降りになってきたので、歩いてみることにした。
ラーメン屋や飲み屋などと並んで、やはり何かサブカルチャーを感じさせる小さな店が続く。高田渡のポスターが張ってあったり、扉の向こうから『風をあつめて』が聞こえてきたり、小雨の中歩いていると、永島慎二のマンガの登場人物になった気分になる。なんとなく、ブルースやフォークといった文字が多い気がするのは、高円寺側だからだろうか。
「ゴジラや」の店内は、ブリキの飛行機や自動車、ソフト・ビニール製の怪獣などレトロな玩具であふれ、まるで巨大なおもちゃ箱だ。見ているとキリがないのだが、やはり見てしまう。リュウジくんも、懐かしい、これあったなあ、などとつぶやいている。レコード棚を繰ったら、三波春夫の東京五輪音頭と並んで、子門真人が“歌う”映画『スター・ウォーズ』のメインテーマがあった。
高円寺の駅が近づくにつれて、通りは一気に賑やかになる。音響系ショップの「円盤」インド雑貨屋の「仲屋むげん堂」など、おなじみの店が次々に現われる。駅の向こうには「次郎吉」があるし、ライブハウスも多い。ギター・ケースを背負った若者が、そこここにいる。音楽の街、高円寺だ。
駅前には、リュウジくんリクエストのインディーズCDショップ、サンレイン・レコーズ(Sanrain Records)がある。すっきりときれいな店内には、先日あったスティーブ・ライヒのコンサートの映像が流れていた。壁一面の棚には、ジャズロック系など、おもしろそうなCDが並び、殆ど全て試聴OKなのもうれしい。スタッフも親切だし、これはいいところを教えてもらった。
それにしても、中央線沿線は懐が深い。サブカルチャーや音楽というと、なんだか新しいものにばかりが価値があるように思いがちだし、実際ここからは、最新の文化も次々と発信されている。しかし一方で、戦前から続く文士文化、クラシック音楽や現代アートもしっかりと根付いている。最新最先端のサブカルチャーだけではなく、ジャズ、フォーク、ブルースなど60年代からの流れも脈々と受け継がれている。しかも、それらは表通りのお店のショーケースにあるだけでない。こんな所にこんなものが、といった形で、日常と混在しながら、しっかりと自分の場所を確保している。誰かが仕掛けてそうなったのではない、生活する人と結びついた文化の力強さが、ここにはある。
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色んな個性を持つ小さなお店の数々は、雑多に混ざり、溢れながらも1つの高円寺カラーで統一され、強い磁場を放っており、虚弱な僕は、長居すると熱が出そうでした。濃いーです、高円寺。個人的にも、古い知り合いだったサンレイン・レコーズ店長と再会できたり、円盤屋で珍しい音源を物色できたりと収穫溢れる1日でした。
Rock oN 担当 リュウジ
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高山博プロフィール:アレンジャー/コンポーザー。クラシックはもとより民族音楽からポップス、ロック、アニメ音楽まで幅広い知識と 経験を 持ち、CD、TV、劇伴、イベント等、幅広い分野で活躍中。コンピューターと シンセサイザーを使った音楽制作にもその最初期から取り組んでおり、作品のクオリティの高さには定評がある。Rock on CompanyでもKeyboardMagazine連動セミナーでおなじみ。
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【目次】
第五回 中央線ぶらぶら歩き
「STAR WARS フォースの覚醒」はどのように作られたのか
今年のRock on AWARD2016は掲載されていない製品にもどんどんとうひょうできます![...]
クロスフェード…それはCreatorとProductの化学反応[...]
RME Babyface Pro発売を記念し、創業者マティアス・カーステンズ氏インタビュー[...]
『シンセサイザーの楽しみ』ともう一度向き合おう。情熱とこだわりがシンセの歴史を変えて行く!キーマンのお二人に直接インタビューをすることができました。[...]
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