9月3日から一週間ほどアニメ「うしおととら」の録音〜ミックス〜マスタリングのために東京に戻りました。あいにくその1週間、一度も晴れる事がなく久しぶりの雨続きの日々と台風を経験しました。台風18号により被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。台風の動きも少し変わってましたけど、その後の関東に停滞した雨雲は本当に記憶にない留まり方でしたね。
※ LAの空
東京もLAも異常気象!?
LAは9月に入っても秋の気配は全くなく、むしろ夏バテしそうなくらい暑いんです(というか夏バテしてダウンしてましたが)。カリフォルニア州では過去10年で一番被害が大きいと言われる山火事も起こったりして東京でもLAでも異常気象を感じますね。ただ東京に戻ると「LAって水不足大変なんでしょう?」と良く言われますが、ロサンゼルスって実は非常に広いので、日本のニュースでは確かに「ロサンゼルス」という扱われ方をしますけど、僕が住んでいる所謂WEST LAからは相当離れた場所の出来事なんです。一時、公共の場の噴水が止められたりしていましたが、現在はほぼ復活。それに「循環させて水を利用している施設」は噴水等を止める必要がない決まりになっているので、僕の家の周りやサンタモニカ等ではあまり水不足を肌では感じません。
リモートセッションとは?
今年は日本の仕事もかなりしていますが、毎回レコーディングの度に東京に戻れるわけではありません。戻れない場合のディレクションをどうするかというと「リモートセッション」という方法でLAの自宅やスタジオから東京とやり取りしています。リモートセッションとはネットで2カ所または複数の地域を繋いでセッションする事です。
日本のレコーディング業界というとほぼ東京に集中しているのであまりリモートセッションをする必要がないかもしれませんが、アメリカだとNY、LA、サンフランシスコ、シカゴ、ナッシュビルにスタジオが存在して、各地にミュージシャンが住んでるし、さらに海外の(主にヨーロッパだけど)オーケストラやミュージシャンとの間でレコーディングセッションをするプロジェクトがかなりの数あるので、リモートセッションは全然珍しい事ではありません。
ヨーロッパのオーケストラ団体の場合はオーケストレーションに関しての指定と同じようにリモートセッションの方法も指定があります。オーケストレーションの指示というのは今回の本題と離れるので詳しくは説明しませんが、ヨーロッパのそういう団体のミュージシャンは基本的に普段クラシックの演奏をしている場合が多いし、使用するホールによってはダイナミクスの表記の仕方が多少変わって来るので、そういう本来ならこちらでオーケストレーターがやる部分のチェックからライブラリアンがする譜面の印刷&管理までリモート先の団体に任せるケースも少なくないようです。ないようです、、、というのは団体によって違いがあるし、プラハのようにアメリカと既に5年以上前からリモートセッションを頻繁にしている団体の場合はかなりアメリカのやり方に倣って変化しているようだし、僕の知り合いが最近使ったドイツのある団体の場合はアメリカのレコーディングとはかなり違った流れでやっていたり、それぞれ条件が違うようですね。
ノイズへの気配りの違い
僕が思うクラシックのミュージシャンとスタジオミュージシャンの一番の違いは演奏のノイズに関しての気配り(または解釈というべきか?)ですね。クラシックのコンサートでは演奏に必要なノイズは出しても構わないんです。こんな事を書くとクラシックのミュージシャンに違うと言われるかもしれませんが、例えば次のセクションのために楽器のチューニングを変えたり、休符部分で姿勢を変えて椅子が鳴ったり、譜面をめくったり、やむを得ず咳をしたり、、、と、こういうレコーディング的にはノイズ扱いになる音がクラシックのコンサートではありますよね。
でもレコーディングでは厳禁です。ですから初期のヨーロッパとのリモートセッションではそういうクラシック畑のミュージシャンがレコーディングに参加していたため、ノイズが各トラックにのってしまっていて、LAにセッションを送ってもらった後にアシスタントエンジニア達がミックスの前にiZotopeのRX4を使ってそれらのノイズを取ったという話はよく聞きました。
リモートセッションに欠かせないアプリ1「Source-Connect」
リモートセッションに欠かせないのがストリーミング用のアプリ、Source-Connectです。東京では馴染みがないアプリだと思いますが、ヨーロッパ(含むロンドン)とのリモートセッションの場合、僕が知ってる範囲ではほぼ100%Source-Connectを使用しています。契約の条件やレコーディングのガイドラインの中にも必ずこのアプリのを使用する指定があると思います。基本的には現地の音をストリーミングしてこちらで聞くという流れですね。
Source-ConnectのProというバージョンだとセッションをする双方にライセンスが必要で(要iLok)、7.1chサラウンドまで対応できます。7.1chとトークバック用の回線があるのでオーディオだけで9ch分、それと映像もシンクロできます。これのもう少し小規模な製品が、Source-Liveで、こちらはサラウンドが必要ないセッション向けですね。最近のアップデートで映像とシンクロもできるようになりましたね。Source-ConnectもSource-Liveも何が簡単かって、ProToolsのマスターフェーダー(またはラウティングして同等のAuxトラックでも可)にプラグインとして挿むだけって事ですね。最初のセッティングだけは英語が読めないとちょっと面倒かもしれませんが、そこさえクリアすればこれほど簡単なアプリはありません。音質も320kbpsまでいけるので、リモートしながらあれこれディレクションしていくのには何も問題ないです。
ただ値段が安くはないので、確かにプロ向けですね。
リモートセッションに欠かせないアプリ2「Nicecast」
もう一つ、マスターフェーダーに挿んで即リモートストリーミングというわけにはいかないので、多少手間はかかりますが、Nicecastというアプリもあります。こちらだと値段はぐぐっと安くなります!
リスニングする側もProTools等のDAWで聞くのではなくてiTunesやブラウザでネットラジオをストリーミングするという形式になります。送信する側はSoundflower等を使ってDAWのオーディオを別回線でNicecastにのせる必要があります。ProTools HDの場合はSoundflowerは使えないので一旦アナログで出力したものを別のMacのI/Oに入れてNicecastにのせるのが簡単なラウティングです。
僕が今年東京とのリモートセッションで使ったのはこちらのNicecastです。理由はいくつかあるんですが、東京のスタジオ事情がちょっと海外のそれと違うからなんです。弦が録音できるある程度大きめの都内のスタジオに幾つか問い合わせをしたところ、ProToolsで使うMacを直接イーサネット経由でネットと繋ぐ事はどのスタジオも厳禁でした。それはネットのセキュリティの問題ですね。セキュリティの考え方、管理の仕方が東京のスタジオはここ10年変わってないようです。東京でリモートセッションが頻繁にあるとは思えないので、それを「ガラパゴス」と呼ぶつもりは全くありませんが、LAのスタジオだとFOXやSONY等の企業系のスタジオを除けばProToolsを起動させているMacがネットと繋がっていない方が珍しいように思います。10年以上前であれば、ネットのセキュリティに関してのノウハウを皆あまり知らなかったので、Macを直接ネットに繋がないというやり方も多かったと思いますが、MacのOSも変わってMac本体でファイヤーウォールの設定が難しくなくなった今ではルーターではTCPのポートは開けておいて、各Macでファイヤーウォールの設定をするという方が一般的なような気もします。この記事はあくまでも僕の都合で書いてるので繰り返しますが、日本のスタジオを批判してるわけではないんですよ(笑)。
Source-ConnectはTCPのPort 6000-6001番、NicecastはTCPのPort8000番を使います。さらにNicecastを使用する場合はトークバック的な役割の回線として、FaceTimeAudioを使用しましたが、それにはPortの 80番のHTTPトラフィックが必要になります。これらのポートを開けられないスタジオは自動的にリモートセッションは不可能という事になります。個人的にはITのセキュリティって良く分からないからオールインで全部ダメ〜というのは受身なセキュリティな感じもしますが、、、結局最終的にリモートセッションしたスタジオも必要なPortは開けてもらいましが、やはりMacを直接イーサー経由でネットに繋ぐのはNGでWi-Fi経由でNicecastを使用しました。そうすると音質をキープしようとするとレイテンシーが増える図式になります。LAとスタジオのやり取りに使っていたFaceTimeAudioのレイテンシーは全然気になりませんが、Nicecastはサーバー経由のストリーミングとなるため、LAに居る僕の所には東京のスタジオのサウンドが4秒弱遅れて聞こえるんです(笑)。だからFaceTimeAudio経由でミュージシャンから質問された事に答えた後に、Nicecast側から遅れてもう一度同じ質問が届いて、もう一度返事しちゃったりなんていう多少混乱はありましたが、レコーディング自体には全く問題はありませんでした。イーサネットでダイレクトにMacに接続できればこのレイテンシーはもっと小さくなります。NicecastではなくてSource-Elementsのサービスを使用すればさらに快適になります。
Nicecastを是非デモで試してみて下さい。同じ東京に住んでいても友達どうしでトラックを作ってる際に使えばAさんがギターを弾いてWAVで送って、BさんがそれをダウンロードしてDAWに取り込んでプレイバックして、またAさんに連絡する〜という手順もう必要ありません。リモートセッションでやり取りしてOKテイクを決めて、最終的にそのトラックだけを送ってもらえばかなり時間が省けますし、お互いの都合の良い時間帯で作業できますしね。
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