音をクリエイトし、活躍している人をご紹介するコーナー「People of Sound」。このコーナーでは、制作者の人柄が、サウンドにどうつながっていくのかに注目。機材中心のレポートから少し離れ、楽しんでお読み下さい。

さて、今回の第21回目は2009年に開催された「Rock oN 楽曲コンテスト 2009」にて、見事最優秀賞を獲得されたnothing ever lastsさん。今、Rock oN店内にてヘビーローテーション中のこのバンド、ボーカル、ギター、ベースの3人ユニットで、ボーカルはなんとアメリカ人!日本人が歌っているとしか思えない流暢な日本語には脱帽です。ミックスしていただいたエンジニアの飛澤正人さんを唸らせる程、非常に完成度の高い楽曲はどのようにして制作されたのか?さらにオフィシャル・サイトを覗くと、全てを網羅しているかのようなSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のリンク!謎多きこのバンドの正体に迫るべく、ギターの本田 耕さんの自宅スタジオにて、ボーカルのネルソン・バビンコイさんと共にお話を伺いました。

2010年2月1日取材

日本語で歌うアメリカ人ボーカリストの音楽の芽は高校の交換留学生時代に生まれた

Rock oN:まず、ネルソンさんの生い立ち、日本に来た経緯を伺えますか?

ネルソン・バビンコイ氏(以下ネルソン):生まれはロサンゼルスのバーバンクで、ユニバーサルスタジオから非常に近いところに実家があります。意外と地味な町(笑)ですが、僕が生まれた頃から映画や音楽のスタジオがあり、静かな業界の町といったところですね。僕の祖父の隣人がプロデュースやアレンジの仕事をしていて、矢沢永吉さん等も仕事でいらしてたみたいです。

バーバンクは、ハリウッド・スタジオに近いとの事もあり、ワーナ・ブラザーズ本社もある、音楽的にもメッカな町。当店でも非常に人気の高い「Trilian」や「Omnisphere」でおなじみのSpectrasonicsの本社もあり、社長のエリック氏もここに住んでいます。詳しくは「Rock oN NAMM Show 2007 Arrival Report」をどうぞ。

15歳の高校生のときに、姉妹都市だった群馬県太田市に交換留学生として来日したんですね。最初は単純に楽しそうだと思って申し込んだんですが、2週間ホストファミリーと過ごしただけで、人生が変わりましたね。元々僕は一人っ子で、いままで大家族に囲まれて暮らした経験がなかったんですが、いつも親兄弟が一緒にいるその環境がすごく新鮮で、素晴らしかった。自分の事を完全に息子同様に扱ってくれて。それからは俺は日本だ!日本に住んで日本で仕事がしたいと思い、その時から日本語の勉強を始めたんです。なんでそう思ったのか聞かれると、今でもよくわからないんですが(笑)。1年後に来日して日本語で日本人としゃべった時は「俺、外国人と喋ってるぜ!」っと思って、えらく感動したのを覚えています。その後、UCバークレー(実はアメリカトップのインテリジェンス!!超エリート)に入学し、そこでも日本語を専攻して、1〜2年間、慶応大学に留学させてもらい、その後本国の大学に戻り、卒業して、2007年の10月にまた来日しました。それから現在2年ちょっとです。

Rock oN:日本語がかなり流暢ですが、どんな勉強の仕方をしたんですか?

ネルソン:最初は独学で基礎を学んでいたんです。でもつまらなくて...。なので、高校に通いながら、夜は短大に通いました。ロスは日本人の留学生も多く、そこで英語を学びにきていた日本人と友達になって、無理矢理日本語をしゃべらせて(笑)、教えてもらいました。最初は何を話しているのか分からなかったんですが、次第に耳が慣れてきて、段々と分かるようになってきて、読み書きは出来ないんですが、ペラペラになって。現在も話していてストレスなど全くないですね。大学ではさらに詰めて学んでました。万葉集とか古今集とか(笑)。

Rock oN:ネルソンさんが、音楽に目覚めたキッカケは?

ネルソン:15歳の時に日本に来てからです。僕の父がイーグルスとかジャクソンブラウンとかのシンガー・ソングライターが大好きで、5、6歳ぐらいの夏に毎日聴かされました。ギターも15歳の誕生日に、父にプレゼントされたんです。それも群馬に来る直前に。群馬からアメリカに帰る時に、交換留学生たちが一芸を披露する場があって、そこで1曲弾き語りをしたのが、人前でプレイした最初でした。今ならとても人には聞かせられない超ヘタクソな歌にもかかわらず、大勢の人からたくさんの拍手を貰って、努力が認められたというか、すごく温かく包み込んでくれたんです。「この気持ちはなんだろう」って。それでもっとその努力が認められるようなことがしたいと思い、もっと音楽をやろうと思ったんです。

慶応に留学していた頃は、19歳ぐらいだったんですが、よく路上で弾き語りをしてました。この時の僕はかなり怖いもの知らずで、外国人が日本語で弾き語りをしたら、すぐスカウトされて間違いなく売れると本気で信じてた。それである日池袋辺りでライブをしていたら、インディーズ事務所からスカウトされたんです。その頃は若さも手伝ってか、すぐ契約してやろうと思い、自分ではすごく自信のあるオリジナルソングを歌って聴かせたところ、5〜10秒ぐらいでストップさせられて、歌もギターも日本語も下手だと言われて…。ショックでしたね。でもルックスがいいからということで、日本人の女の子とユニットを組まされて。ただ、このときビザの関係上、そのユニットはデビューすることも無く、また大学に戻って、音楽は趣味程度にとどめておこうと思ったんです。

それからしばらくした後、友達の誕生パーティーで日本の人気アイドルの曲を歌ってくれというリクエストがあって、練習しながら確認のために撮ったビデオが意外に面白かったんです。「外国人が日本のアイドルの歌を歌ってる」って。それをYouTubeにアップしたら日本ですごい再生回数で大反響だったんです。これには驚いたというより、面白かったですね。アメリカでは著作権に関係無く、メジャーな曲を歌ったり演奏したりした動画をすぐアップするんです。

Rock oN:バンド誕生のキッカケとなったのは?

本田 耕氏(以下 本田):今から2年半ぐらい前に、ちょうどその頃僕が組んでいたバンドが解散してしまって。そんな時にたまたまYouTubeを見ていたら、日本語で日本の曲を歌っている変な外国人を見つけたんです(笑)。「こいつと一緒に音楽やったら面白いかも」と思って、彼にコンタクトしたんです。けどメールを出しても全然返信が来なくて(笑)。

ネルソン:その時は最高潮でしたね(笑)。当時は日本もYouTubeはこれからという時でしたが、ミュージシャン枠の中でも、メジャーを抜いてダントツ1位。mixiでもコミュニティ登録者が1,800人、マイミクが3,000人もいて、YouTubeの再生回数も日に日に跳ね上がっていく。そんな中、反響のメール、一緒にバンドやろうぜメールの量もすごくて。でも一人で音楽する方がいいと思って、丁寧に断っていたんですね。彼もその一人だったんですが、何度断ってもしつこくてしつこくて。「俺と組んだら絶対後悔しないぜ!」とかえらい自信たっぷりだし(笑)。その後、彼のCDを聴く機会があったんですが、その年齢なのに音がすごくしっかりしていて「これはすごいな!」と驚いたんです。それで今度は僕の方から一緒にやろうって言い出して(笑)。気持ちはバンド・サウンドを目指していくことに定まっていった頃の出会いでしたね。

僕もその頃、とにかく世に出たい!という一心でYouTubeなどを利用して色々仕掛けていたんです。その甲斐もあって、某テレビ番組にも出演したりして、有名人の前で歌ったりもしました。そしたら優勝しちゃって…。それがキッカケで番組プロデューサーの目に止まって、アメリカ人芸能人のマネジャーもしていたことがありました。その時に芸能界の裏側やイヤな部分も知る機会があったりと、いろんな経験をしましたね。

様々な情報が飛び交うネット上で、正に奇跡的な出会いを果たしたお二方。これもネルソンさんによるアメリカ仕込みの、文化的交流手段の結果によるものでしょう。また、非常に高い再生回数を誇っていたYouTubeも、著作権侵害の関係で、1度アカウントを削除されたりなど、悔しい思いもしたとか。では、現在盛り上がっているSNSを含めたネット上のツールを使って、どのように自分たちにスポットをあててもらう為のプロモーション活動を行っていくのか、さらにお話を伺ってみました。

SNSを駆使して、どれだけ身近に感じてもらえるかが鍵

Rock oN:バンドのサイトを拝見したところ、今が旬のSNSのリンクがズラリとならんでいますが、これは今後どのような展開を考えていらっしゃいますか?

ネルソン:今のバンドで音楽を展開していくにあたって、どれぐらい身近に感じられるかが勝負だと思い、YouTube、MIXI、twitter、Facebookなど、あらゆるSNSサービスを利用しています。こういったネット・サービスは、日本はまだこれからという印象ですが、世界では広範囲に深く浸透していて、ユーザーは自ら聴きたい、見たいものにアクセスしていく、そんな時代だと思うんです。だからこれからの音楽ビジネスとしてはCDもなくなって、ライブで儲けていくしかないかもしれませんね。ライブは生ものなので、実際に目の当たりにしないとその感動は味わえないですから。またYouTubeなど全世界に向けて発信されているので、その影響で楽曲を購入できるようにダウンロード配信サービスは利用しています。

いま僕がパーソナリティーを努めているスペースシャワーTVの番組でも、毎週インディーズバンドを紹介しているんですが、メジャーになっていくにはSNSをうまく利用し、一般層と交流を図る事だと思っています。アメリカ人はこうと決めたら突っ走るタイプなんですが、日本人はリスクなどを先に考えてしまって、突き進まない。そういったマイナス思考を取り払うともっと世界が広がっていくと思いますね。著作権などの問題もそうですが、アメリカではメジャー・アーティストの楽曲がYouTubeにアップされていても、逆にそれが宣伝効果を生むという考え方なんです。直接的な利益を生むわけでもないですし。ところが日本だと事務所がらみでアーティストの保身を第一に考える。この差が日本の音楽がイマイチ世界に広がっていかない要因かもしれませんね。

Rock oN:日本のミュージックシーンって、アメリカと比べてどうですか?

ネルソン:アメリカって日本と比べてライブハウスは少なくて、Barとかクラブが多くあるので、アマチュアはそこでライブをして勝負していますね。ストリート(路上)ライブも殆ど無いというより出来ないんですが、逆に日本だとまだ自由にやれるので、どんどんやればいいと思います。また、風潮としては、アメリカは英語の歌詞でないと聴かないというのも未だに残っています。でもこれだけSNSが広く浸透していってくことで、今後は変わってくるでしょうね。

プロデュース力と機材知識・技術力を合わせもつパートナーシップ

Rock oN:オリジナルの楽曲を作るにあたって誰かの影響を受けたことはありますか?

ネルソン:Mr.Childrenとか、日本語の歌詞がすばらしいアーティストに影響されましたね。とにかく日本語は美しく、大好きです。そこに幼少から聴いてきた音楽ががミックスされ、形作られていくという感じですね。最近ではありとあらゆるジャンルの楽曲を聴いているので、もちろんその影響もあります。中でもUKロックが特に好きですね。

Rock oN:どんな感じで曲を書いています?どっちが書くとか決まってたりしますか?

ネルソン:どっちかと決まっている訳でなく、アコギを録音してメンバーに聞かせ、アレンジやミックスはみんなでしますが、主に本田ですね。前は一緒に住んでたんで、細かいところも2人で作りこんでましたが、今は別々なので、僕が作ったデモを本田に渡してアレンジしてもらう感じです。マイクも含め、殆どの機材はみんなロックオンにお世話になってます(笑)。

本田:ほんとお世話になってます(笑)。基本的にレコーダーはDigidesign Pro Tools LEを使っていて、ドラムなどもSHURE 57を立ててDigiMaxを通して録りをしています。以前購入したWAVESのSSL 4000 Collectionのコンプをドラムに使ったんですが、音がいいとかの次元を超えて、まさに革命でしたね。ミックスを外部に出そうかとも思っていたんですが、結構、このプラグインで救われました。最近ではAMEKも購入したので、こちらもどんどん使っていきたいですね。

Rock oN:ネルソンさんの家にはどんな機材がありますか?

ネルソン:EDIROLのR-09のみ!それ以外ではACIDもありますが殆ど使っていない(笑)。それよりもYouTubeにアップする作業の方が多いので、Vegasをよく使います。でも最近は鍵盤も弾いたりするので、次のライブではmicroKORGを使いたいと思っています。

Rock oN:microKORGは初期のタイプですか?

ネルソン:実は、俺は機材はよく分からない。機材は相棒に相談しています。彼がいなかったら何も買えない(笑)!

本田:逆に僕は、売っていき方が分からない。彼がいなかったら、ただのオタクですよ。そういう意味では、お互いのバランスが取れているんじゃないかと思っています。

Rock oN:本田さんが、いつも使っている機材は?

本田:以前、WAVESのSilver Bundleを買ったんですが、やっぱりRenaissance EQですかね。思い通りの音作りが出来るというか、ほんとプロの音がするんですよ。かなり気に入っていて、すごくよく使っています。ドラム音源はEZdrummerとStylus RMXが中心です。ベースではTrilianも持っていてまだあまり使いこなしてないんですが、固めのプロの音という印象。今後は、OmnisphereとかTotal Studio 2などのシンセ系もいこうかなと思ってます。

メジャーレコードに頼らないセルフプロデュースができる時代にいると思っている

Rock oN:コンテストに応募していただいた楽曲の飛澤さんミックスの感想はいかがですか?

本田:うわー、こう来たか!という感じです。音圧もさることながら、音の分離がよくなっている。ドラムが全然違いますね。ローファイのつぶし方がDragon Ashだなぁと思いました。

ネルソン:勢いがあって、でも優しい。そして絶妙のバランスがいい。特にサビとのメリハリ感には鳥肌が立ちました。

Rock oN:ロックオンとしては、選考した後の展開を考えようと飛澤さんとも話しあっているんですよ。

ネルソン:ぜひ、やった方がいいです。

本田:あのコンテストの受賞者をフューチャーしていって、レーベルに似た感じにしたらいいなと思うんですよ。機材レビューなども添えて。

Rock oN:ところでご応募いただいたのが、とても早かったですね。

本田:アルバムを出すための楽曲をつくっていて、ミックスなども進めていた頃でしたので、タイミングがよかったんです。ですが制作中は、データが飛んだり、マシンが思うように動作しなかったりとかのハプニングはありました。やはり自分のやりたい事に対して、ちゃんとレスポンスが働いてくれる機材は絶対に必要だと思いましたね。

Rock oN:今後の展開をお聞かせください。

ネルソン:将来的には、プロデュースまでやっていきたいですね。メジャーに頼らず新しいメディアを使って成功できたらと思っています。どのくらいアーティストを身近に感じるか、ファンと交流できるか、という意識も大切だと思います。今の時代、みんな、自分もこうなりたいと思える人のものしか聞かなくなってきている。YouTubeでアクセスが多いのも、そういったアーティストだと思います。

今は、個人で機材が買えて、ミックスやマスターまでも全部できて、アーティストとして活躍していける時代ですよね。メジャーデビューでレコード会社などに所属しなくてはいけなかったのが、これからは、自分で自分のマーケティングをし、マルチタレントとしてシフトして成功することが可能だと思いますね。

24歳という年齢の割には色々な経験をしたので、シビアに考えているところが、他のメンバーとよくぶつかったりもします。最近では特に、バンド内でお金につなげていくには?成功するには?ということを常に話あっていますが、取り敢えずYouTubeなどで結果がでるのは1、2年後でしょうね。5年、10年後先をみて投資することが重要だと思っています。それに伴って、去年まで事務所を作ろうかと思っていたんですよ。何もしなくても収入を得るシステムを作って行きたいと思って。

Rock oN:最後になりますが、あなたにとって音楽とはなんでしょう?

ネルソン:本当の自分になれる唯一の方法ですね。歌を歌う時は裸の自分になってさらけ出しているのと同じで、それを受けた人がたった一人でも感動してくれたり、心の癒しになったりすれば最高です。音楽って聴けば感じるものが何かあるはずで、そこには壁がないと思っています。そこを大事に気持ちをシェアしていけたらいいですね。

本田:僕もイメージをシェアする事だと思います。自分の脳みその中だけにあったものが形になって、それを聴いた人が共有していくという。それってすごく面白い。ただ今の時代、音楽制作も進化してコンピューター化してますが、太古の昔からある、音楽の持つ純粋な楽しいところを失わずに、今後も作品づくりを心掛けたいですね。

その若さとは裏腹に、豊富な人生経験をお持ちのネルソンさん。また、自ら機材オタクと言うだけあって、その技術力を持って高い完成度を実現させている本田さん。バンドを成功に導く術としてのネット利用など、一昔前には無い、今の時代による音楽の表現手法を垣間見た気がしました。ただ、お互いの顔が見えない、無機質になりがちなコンピューター・ネットワークの世界で、心と心のシェアを最も大事にしている点は、今の若手バンドには少ない、「純粋さ」を感じました。今回、最優秀賞を受賞したのも、その純粋なまでの音楽を愛する気持ちや楽しさが、しっかりと伝わった証だったのではないかと思いました。

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