• 2009.02.26

高山博さんによるコラム「東京音楽散歩」:第四回 国立音楽大学楽器学資料館


※弊社メールマガジン「ROCK’in MAILMAN」2008.7.4号〜2008.12.19号まで連載された、高山博さんによるコラム「東京音楽散歩」を再掲載しています。

第四回 国立音楽大学楽器学資料館

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国立音楽大学へ(掲載日時:2008年10月3日)

季節は芸術の秋、というわけで、音楽芸術の殿堂、音楽大学に行ってみた。訪問したのは、国立音楽大学。ここのキャンパスには、「楽器学資料館」という楽器の博物館があり、誰でも見学できるようになっている。

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国立音楽大学は、音楽大学の名門。漢字だと間違えやすいのだが、国立は“くにたち”と読む。その名のとおり、元々は国立市にあり、僕もてっきり中央線の国立駅から歩くのだとばかり思っていたのだが、もう随分前にお隣の立川市に移転したそうだ。中央線からは、立川駅でモノレールに乗り換えて、玉川上水が最寄り駅になる。

kunitachi1-3 車だと何度も行っている立川だが、駅に降りるのは久しぶり。再開発が進み、見違えるように立派なターミナルになっている。駅前には、伊勢丹、高島屋など大きなデパートがならび、ちょっとした地方都市のような風情だ。少しブラブラしたいところだが、今回は入館時間があるので乗り換えを急ぐ。モノレールというだけで、ワクワクした気分になるから不思議だ。

kunitachi1-4 乗ってしまえば、モノレールも電車と変わらない。車窓からみえるのも、よくある郊外の住宅地の風景で、すっかり生活の足だ。ただ、乗客には、バイオリンやトロンボーンのケースを持った人がチラホラいて、やはり音大が近いことを感じさせる。

駅に着くと、いつものようにリュウジくんが先に来て待ってくれていた。彼もここへ来るは初めて。土地勘のないまま、とりあえず高架駅から地上に降りると、なんとそこは一面の墓地だ。驚いたり写真をとったりしている僕たちの横を、楽器ケースを持った学生が、スタスタと追い抜いていく。

kunitachi1-5 向こうに、校舎らしきものが見えるので、墓地沿いに歩いていくが、どうも様子がおかしい。門の表示を見ると、拓殖大学第一高校となっている。国立音大への道を教えてもらい、さらに歩いていくと 立派なカリヨンが現われた。カリヨンは、大小様々な鐘を並べて、音階演奏できるようにした楽器。様々な形のものがあるが、ここのは、木の幹に果実が生っているようなデザインがおもしろい。ようやく着いたかなと思ったが、ここは付属の音楽ホールで、目的の楽器学資料館はまた別の場所とのこと。親切な職員の方が、わかる場所まで案内してくれた。道々聞いてみると、カリヨンは、コンサートのあるときなどに鳴るらしい。今日は聞けないということで残念。

なんだかえらく遠回りをしてしまった気がするが、こうして道に迷いながら、いろいろ見るのも、行き当たりばったりに歩いている面白さだ。

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秋らしく、アカデミックに。。。ということで今月は上品に行きます!いつも耳にしてる「エレキギター、ドラム、ベース、キーボードとパソコン」というアンプリ・ファイヤーな世界から離れ、楽器の発するナチュラルな音で耳を癒せそうです。

Rock oN 担当 リュウジ

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楽器学資料館でピアノの歴史を歩く その1 (掲載日時:2008年10月10日)

楽器学資料館は、図書館と同じ建物の5階にある。ロビーでは、学生が、熱心にビデオをみながら、何やらメモをとっている。棚には、様々な民俗楽器/民俗音楽のCDやビデオが閲覧できるように揃えられている。受付の向こうでは、白衣を着たスタッフの方々が机に向かっており、研究所といった趣きがある。申し込むとガイドツアーも行ってくれるそうだ。今回も、ガイドの方がついてくれて、とても丁寧に案内してもらった。

展示室に足を踏み入れると、膨大な数のピアノが出迎えてくれる。集められているのは、いずれも歴史的な楽器ばかり。年代によって並べられているので、順番に見ていけば、ピアノが現在の形になるまでの様々な試行錯誤がわかる寸法だ。残念ながら殆どの楽器は演奏禁止で、その場で音を出してみることはできないが、見ているだけでも十分に面白い。

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とにかく古いピアノは個性的だ。中でも、ピアノ文化が花開いた19世紀の楽器は、工芸品としても存在感があり、見た目にも楽しい。凝った彫刻を施したもの、燭台や美しい金具の着いたものなど、優雅なサロンが目に浮かぶようだ。

そんな中、多角形のピアノには驚かされた。ホディの奥、ちょうどグランドピアノのおしりにあたる部分にカクカクと角がついている。側板を曲げる技術が難しかったのか、それともデザイン上の遊びなのか、いったいどんな響きがしたのだろう。また、通称ジラフピアノと呼ばれるピアノも面白い。アップライトピアノの一種なのだが、ボディがグランドピアノを横に立てたような形をしている。ちょうど湾曲して抉れた部分が上で、まさに、横からみたキリン(=ジラフ)のようだ。

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見、どれも同じような鍵盤だが、よく見ると微妙に違うのがわかる。幅が狭いもの、奥行きが長いもの、黒鍵の高さが低いものなど様々だ。手が小さな僕などは、鍵盤も小さめの方が弾きやすそうに見えるが、実際に弾いたらミスタッチの連発になるかもしれない。逆に、これで弾いてくださいといわれたピアノが、普段使っているピアノよりも鍵盤のサイズが大きかったら悪夢だ。

楽器として個性的であるべき部分と、誰でも安心して使えるように共通の規格になっている部分、家具的な装飾の部分と、音や演奏のために必要な部分、長い年月のうちに、様々なふるいにかけられながら、洗練されていった様子がよくわかる。どのピアノも魅力的なのだが、それらを見た後で、現代の真っ黒なピアノをみると、それがいかに無駄なく美しいフォルムであるかもまた実感できるのだ。

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豊富に集められた古い楽器の数々に驚かされました!こうやってピアノの歴史を見ると、普段目にしているピアノが今の形に落ち着いたのは、(大げさですが)人類の歴史から見れば以外と最近だということがわかります。楽器の変化は当時の人々の生活や暮らしとの関わりによって行われて来た部分が多くあることを説明で伺い、大変興味深く感じました。一方、コード上でのみ行われるソフトシンセのバージョンアップは、楽器の新しい進化形態なのでしょうか?

Rock oN 担当 リュウジ

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楽器学資料館でピアノの歴史を歩く その2 (掲載日時:2008年10月17日)

時代とともに変化したピアノだが、変わったのは、形ばかりではない。楽器の心臓部にあたる発音機構にも、様々な工夫が加えられていく。なかでも音を出したり止めたりするハンマーアクションの改良は著しい。  ピアノの大雑把な歴史と、ハンマーアクションの原理はだいたい知っていたのだが、やはり歴史的ピアノを順番にみれば、その変化がとてもよくわかる。初期の、ハンマーで弦を叩いてダンパーでミュートするだけ、といったシンプルな機構が、複数のテコを組み合わせた精緻なメカニズムへと進化していく様子が一目瞭然だ。

しかも、このハンマーアクション、複雑になるだけでなく、しだいに大きく堅牢になってもいく。これは実物をみないとなかなか感じがわからないところだ。初期のものは全体の大きさも小さく、強く叩くと壊れてしまうのではないかと思ってしまうような華奢な作りになっている。なるほど、モーツァルトのコロコロと典雅な響きは、こういう楽器を前提としていたのだな、と実感できる。やはり音楽でも、百聞は一見にしかずということがある。

ピアノの隣には、その先祖ともいえるハープシコードやクラビコードが展示されている。ハープシコードはピアノより前に一般的だった大型の鍵盤付き弦楽器。ピアノと違って弦を引っかいて(はじいて)音を出す。ポップスでも良く使われるのでおなじみだろう。これは自由に弾いてもいい楽器があった。他に誰もいないのをいいことに、場違いを気にせずバカラックを弾いたらこれがゴキゲン。やはりスピーカーを通さない音はいい。リュウジくんも、これこれ、といった顔をしている。

クラビコードは、やはりピアノ以前の鍵盤付き弦楽器。ピアノと同じように、弦を叩いて音を出すのだが、ハンマーアクションを持たないので、鍵盤を押し下げている間、弦を叩きっぱなしになる。いわば、ギターのタッピングで音を出しているようなものだ。これも試奏できる楽器があったので弾いてみた。まさに、アコースティック・ギターのタッピングで、とにかく音が小さい。ほんとうに、自分のためだけに弾く楽器という感じだ。ちなみに、クラビネットの基本構造は、これにピックアップをつけたもの。試しにスティービー・ワンダーのリフを弾いてみたのだが、繊細な音があまりにも場違いで、自分でも可笑しくなってしまった。

kunitachi3-1 さらに展示室には、ピアノの遠い遠い先祖とも言われる、チター、ツィンバロン、サントュール、楊琴、といった楽器も並んでいる。いずれも、四角いボディに多数張られた金属弦を、バチで叩いて音を出す楽器で、東欧からインド、中国まで、様々な地域に分布している。こうして眺めていると、わずかな間に、ピアノをめぐって時空を超えた旅をした気分になる。

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館内にはハンマーアクションの構造が分かるように、ハンマー部位の実物が数種類、実際に手で押せるよう展示してありましたが、こうやってみると「なるほど!」と思うと同時に、職人の手による「クラフト」なんだと実感しました。展示品で忘れられないのがピアノ運指トレーニング用強制ギブス(と言えばいいのでしょうか?)。指にはめると、なんだかとっても痛そうな機械なんですが、澁澤龍彦的な「エロス」も感じ、そっち系がお好きな方にも一見することお勧めかと。。。

Rock oN 担当 リュウジ

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楽器をめぐる旅は続く (掲載日時:2008年10月24日)

なんとなくピアノのことばかり書いてしまったが、他の楽器のコレクションも、とても充実している。鍵盤楽器でも、チェレスタから小型のパイプオルガン、さらには鍵盤を分割して純正調による演奏を可能にした純正調オルガンといったものまである。

kunitachi4-2 もちろん、鍵盤楽器の他も膨大だ。スイスのカウベルが組になってぶらさがっている。カウベルはドラムセットやラテンパーカッションでも使われるが、こちらは、一周りも二周りも大きいし、形もふっくらとしている。バチでたたくのではなく、揺れると鳴る仕組み。放牧する牛の首につけて鳴らしていたから、カウベルなのだ

『崖の上のポニョ』や『世界に一つだけの花』など、最近では思わぬ曲で使われているバグパイプも、実物を間近でみることができる。ちゃんとドローン用とメロディ用の二本のパイプがある。装飾の赤い房がスコットランド風だ。

kunitachi4-1 さらに、非西洋の楽器もおもしろい。ギターのように、弦を張ってかきならす楽器は、ほんとうに数が多い。インドのシタールや、中国の琵琶、中東のウードなどユーラシア全域にある。琴やハープのようなものまでいれると、ほぼ世界中にあるといっていい。それぞれが共通点を持ちながら、個性的でもあるのが、音楽とは何かを体現しているかのようだ。さらに打楽器、太鼓は、もうありとあらゆる地域にある。世界中で音楽が演奏され、よりよい音への工夫がなされている。そのことが、大きな実感になって胸に迫ってくる。

いくら見ても興味は尽きないのだが、閉館時間が近づいてきた。親切に解説してくれたガイドの方にお礼をいって、楽器学資料館を後にする。来るときには、迷ってしまって裏口から入ったので、今度は正門の方へとキャンパスを歩いてみた。構内には、芝生がめぐらされ、大きな木が茂り、まるで公園のようだ。校庭や校舎の思い思いの場所で、学生たちが様々な楽器を練習している。あちらこちらから、何百年も前に作られたクラシックのメロディが聞こえてくる。演奏しているのは、現代の日本の若者だ。

僕達が音楽を楽しんでいる、“いま”“ここ”は、長い歴史とさまざまな地域の交差点なのだなぁ、と遠い想いに心を飛ばしながら、そろそろ早くなってきた秋の夕暮れに背中を押され、駅へと歩いていった。

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今ではチャートで主流のR&BやHIP HOPのトラックに、アクセントとして意外な民族楽器が用いられているのを耳にします。楽器学資料館に足を運び、お持ちのシンセやソフトウェアにプリセットされている「謎の楽器」の正体を目にするのも面白いかもしれません。館内にはMDでサウンドサンプルが準備されているので、ふと聞いた楽器からアイデアが見つかるかも?!

Rock oN 担当 リュウジ

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高山博プロフィール:アレンジャー/コンポーザー。クラシックはもとより民族音楽からポップス、ロック、アニメ音楽まで幅広い知識と 経験を 持ち、CD、TV、劇伴、イベント等、幅広い分野で活躍中。コンピューターと シンセサイザーを使った音楽制作にもその最初期から取り組んでおり、作品のクオリティの高さには定評がある。Rock on CompanyでもKeyboardMagazine連動セミナーでおなじみ。

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【目次】

スタート号 たまにはマウスを置いて、街へ出かけよう>>

第一回 百軒店の音楽喫茶

第二回 日本橋三越のシアターオルガン

第三回 竹ノ塚でラジカセ三昧

第四回 国立音楽大学楽器学資料館

第五回 中央線ぶらぶら歩き

第六回 六本木通り、ホールめぐり


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