※弊社メールマガジン「ROCK’in MAILMAN」2008.7.4号〜2008.12.19号まで連載された、高山博さんによるコラム「東京音楽散歩」を再掲載しています。
第三回 竹ノ塚でラジカセ三昧
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竹ノ塚のDesign Underground Factory (掲載日時:2008年9月5日)
ネットサーフィンをしていて発見して以来、気になって仕方がなかったのが、Design Underground Factory (http://www.designunderground.net/)。中古ラジカセ・ショップのようなのだが、“2033%趣味の店”というキャッチフレーズといい、ウォーホールを思わせる店名といい、タダモノでは無い何かを醸し出している。編集のリュウジくんに話したら、いやぁ懐かしいですね、僕もラジカセ世代ですよ、と大乗り気。かくして今回の取材となった。
竹ノ塚は初めて訪れる街。駅前広場は、三方を大きな建物に囲まれている。いずれも、一階が店舗で二階から上が住居と、70年代の団地でよくあった造りになっている。
バスの時間までしばらくあったので、駅前を少し散歩してみる。ロータリーを抜けるとすぐに商店街で、小さな惣菜屋や食堂などが並ぶ。ちょっとした公園があって、何やら宣伝のお姉さんが風船を配っている。公園のすぐ向こうは団地。といっても、冷たいコンクリートの箱が並ぶ景色といった感じはしない。植栽はすっかり大きくなって夏の葉を茂らせ、長く住まれているだろう建物は、辺りの景色とよく馴染んで落ち着いた生活の場といった風情。どうやらここは団地の街のようだ。団地とラジカセ、何となく似合うような気がする。
バスの時間が来たので駅前へと戻る。教えられた住所もまた団地のようだが、どんな所かちょっと想像が付かない。住所を頼りにたどり着くと、やはり昭和っぽい団地の一角。駅前のそれと同様の、一階が店舗で二階から上が住居となっている棟に、Design Underground Factoryがあった。
まるで中の様子が伺えない扉をノックすると、ニコニコしながら代表の松崎さん登場、ドアの向こうへと招き入れてくれた。
店内に入ると、まず目に入るのが、ところ狭しと並んだラジカセ。しかしよく見るとそれだけではない。レトロフューチャーなデザインのポータブル・テレビや、機械式デジタルウォッチなど、面白そうな家電製品がいくつも置かれている。壁には、昔のApple Computerのポスター“Think defferent”のマリア・カラスが微笑む。本棚には、古いラジオ雑誌と一緒に、昔懐かしい学研のオーディオ雑誌『サウンドール』が並ぶ。YMOが表紙の一冊を手にしたら”ヤングの二人に一人は毎月レコードを買っている”といった見出し。
これはもう宝の山である。同行取材のリュウジくんの目も、あやしく光りはじめている。
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すいません、あやしく光らせてしまいました。といっても、青春をラジカセと共に過ごした世代の方なら、この光景を目にすれば、こみ上げるノスタルジアを抑える事は無理なはず。そういう高山さんも、僕以上に。。。(笑) 来週から秘境探訪 本格スタート!
Rock oN 担当 リュウジ
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青春のカセットデンスケ (掲載日時:2008年9月12日)
めくるめく宝物の数々に興奮しつつ、奥のテーブルで少しお話を聞く。松崎さんはデザイナーでもあり、昔の家電デザインに惹かれ始めたのが、この店とのこと。ただし、単にインテリアとしてそれらを愛でるのではなく、ぜひ使って欲しいとも。そのために、完全にメンテナンスした上で販売しているそうだ。
例えばラジカセなら、ゴムベルトやピンチローラーなどの駆動部分だけでなく、ヘッドを丸ごと換装することもあるらしい。もちろん外観もピカピカに磨き上げる。ものによっては再塗装までするそうだ。古い機種だと、だいたい三台くらいの良い部分を集めて一台に組みなおす具合になるとか。大変な手間だが、そのおかげで、ほぼメーカー・スペックに復元できるらしい。時には、内部のコンデンサーをオリジナルよりも高品質なものに交換して、初期性能以上にすることもあるそうだ。まさにラジカセ愛である。
何か、興味がある機種はありますかと尋ねられたので、入ってくる時に目に付いたSONYのカセット・デンスケを見せてもらう。デンスケとは、古くからあるバッテリー駆動のオープン・テープレコーダーの名機。放送局の街頭インタビューなどでも活躍したプロ機器だ。その名を冠して70年代に発売されたカセット・デンスケは、当時の生録少年にとって憧れの機種。だいたい学年に一人か二人、これを持っている同級生がいて、蒸気機関車の音や、鳥の声なんかを録音していたりした。学生バンドなどは格好の録音対象、持ちつ持たれつというわけで、僕もずいぶんライブやデモテープの録音を頼んだものだ。
そのカセットデンスケは、れっきとしたステレオ・カセットデッキなのだが、モノラルのスピーカーを内蔵していてそれだけで簡易モニターが可能になっている。あらかじめ用意したテープをかけさせてもらった。持参したのは、BFD2を自宅のカセットデッキで録音したもの、演奏データはGrooveMonkeyだ。
これが結構いい音なのだ。カセットを通したことによるコンプ感にあわせて、内蔵スピーカーのクセが加わり、中低域がボンっと出た太い音になる。付属のトーンコントロールでローを出せば、さらに腰の下がった音になる。内蔵スピーカーはフルレンジのワンウェイだし、確かにナローレンジなのだが、どこか音楽的な感じがする。
こうなると欲が出てくる、こんどは録音用に持ち込んだレコーダーからカセット・デンスケへの録音を試みてみた。ややこしいのだが、信号経路としては、ProToolsでBFD2(GrooveMonkey)をWAV化>EDIROL R-09HR デジタル・ポータブルレコーダーで再生>カセットデンスケへライン録音となる。デジタルなんだかアナログなんだか、最新鋭機なのかビンテージなのかわからないような構成だが、結果はなかなか面白い。通常レベルでの録音のほか、過大入力ぎみや、内蔵コンプON、内蔵コンプON+過大入力、も行ってみたがそれぞれに味がある。
これはいい、というわけで、さらに、ギターやパーカッションのネタも試してみる。録音してはモニターを聞き、フムフム、ナルホド、とうなずきあう三人。すっかり高校生の生録マニアと化している。
“デンスケ”サウンド
ではお聞き下さい!最初が元の音。続いて”カセット・デンスケ”を通過した音です。足腰が強くなり、良い意味でアナログ感が加わってますね。
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僕はポスト・デンスケ世代。これを担いでビートルズにインタビューしてる姿をDVDなどで見てましたが、出音、かなりイケテました。音が前に押し出てくる感じで、僕の大好きなプラグインMcDSP AC-2のプリセットにも、”Studer”や”Ampex”に並んで、”DENSUKE”が加わってもいいんじゃない!
Rock oN 担当 リュウジ
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あこがれのスカイセンサー!(掲載日時:2008年9月19日)
今度は、こちらから何か面白い機種はありますか?と聞いてみた。出してくれたのがSONYのSkysensor5950。これもまた、マニア垂涎の機種である。
70〜80年代に、BCL(Broadcasting Listeners)という趣味がずいぶん流行った。短波ラジオで世界中の放送局(日本語放送も結構あった)を受信するのだ。といっても、単にラジオを聞くだけではない、南米やヨーロッパなど、遠方の局を受信するためには、アンテナの向きを調節したり、太陽黒点活動を調べたり、知恵と工夫が必要になる。それが面白いのだ。そして、そんな苦労の果てにキャッチした放送局へ、受信できたよ〜と報告の葉書を送ると、お礼のカード=ベリカードが郵送されてくる。それをコレクションするのも、また楽みになる。考えてみれば、先の生録といい、このBCLといい、当時のBoysLifeはいろんな趣味に彩られていたものだと思う。
僕も小学生のころ、親父の短波ラジオに自作のアンテナを繋いで挑戦したのだが、これがなかなかうまくいかない。何より難しいのはチューニング。アナログのダイヤルで、短波の荒い目盛りをあわせるのは一苦労。お目当ての放送が入らないのは、周波数があっていないせいか、感度が悪いせいか、さっぱりわからない。
そんな中、BCL専用ラジオとして登場したのがスカイセンサー。そのフラッグシップ・モデルに、さらにカセットまでつけたのがこの5950だ。この機種で、何よりもカッチョイイのは、チューニングの方法だ。内蔵クリスタルによって、250KHzおきにマーカー信号が、ピー、ピロピロピロと鳴る。その干渉音を聞きながらメインダイヤルでチューニングを調節し、音が鳴らなくなったところがジャストの周波数になる。そこから、サブダイアルで周波数をあわせていくと、ほぼ正確にチューニングできるという寸法。発振音を鳴らしながらダイヤルを扱うのが、いかにも精密機器を扱っているようでワクワクする。
さっそくマーカー信号を鳴らしてみたら、やはりグっとくる音。研究室や秘密基地のようなS.E.は、シンセでもさんざん作ったのだが、やはりホンモノは違う。これで中近東の放送でも入れば、もう気分はホルガー・チューカイだ。はじめて聞く音に、リュウジくんもすっかりはまっている。短波ラジオとエフェクターでライブ・パフォーマンスできますよね、などと、いい感じで妄想が広がっている様子。
今度は、先ほどのカセット・テープをかけてみた。これがまた抜群に。この日、出合った機種の中では、個人的にベストワンだ。おそらく短波ラジオということでなのだろう、非常に明瞭度が高く、ハッキリと間近で鳴るサウンド。中域だけといってもいいような特性だが、音の細部まで全部見えるような音質だ。もちろんハイファイではないのだが かといっていわゆるローファイでも、故意に汚した音でもない。音楽機材では決して味わえないタイプの明確なモニター・サウンドだ。
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マーカー信号の発信音にヤラレました。アナログ・シンセで作ったり、最近だとサンプリングCDにも沢山収録されてるので、この手の音は何度も聞いてるんですが、まるでスカイセンサーが生き物のように、自ら発信音を吐き出す感じ。とても力強い音でした。こちらでお聞き下さい!
Rock oN 担当 リュウジ
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まだまだお楽しみは続く (掲載日時:2008年9月26日)
スカイセンサーのカセットの音の素晴らしさに味をしめて、何か他のはありますか?といって出てきたのが、70年代のNationalのラジカセ、MACシリーズのST-5。両サイドには、ラックマウント機器のような取っ手がついていたりして、いかにもスパルタンなデザインがイカしてる。ちなみに、この取っ手だが、パネル面との距離が近すぎて手が入らず、持つことができないのも素敵だ。 さっそくテープを再生してみると、これも味がある。おそらく変なギミックを弄さずに、マジメに精一杯迫力のある音を目指したのだろう。無理のない音でありながら、いかにも70年代ラジカセらしいガツンと来るサウンドが楽しめる。
こんなのもありますよと出してくれたのが、SONYの学校用カセットテレコ。どうやらミニPAとしての使用も念頭に置いているらしく、マイクが付属する。鳴らしてみると、まさに拡声器の音で、やたらとやかましい。音質云々よりも遠達性優先のサウンドだ。そういえば、こういう音で運動会の練習をしたなぁ、と記憶がよみがえってくる。
このあたりのラジカセ、特に70年代の機種が面白いのは、やはりある種の割り切りによるのだと思う。狭いテープ幅と遅いテープ速度、小さな筐体にラジオからスピーカーまで詰め込んで、おまけに電池駆動だ。オーディオ機器的な周波数帯域とダイナミックレンジは難しい。では、どうするか?何を残して何を捨てるか?そこに設計者の思想が現われる。作った人の意志が見え、合理的な選択がされているのがわかるのが、なんとも味わい深いのだ。
てなことを話していたら、ではこのあたりはどうですか、と出てきたのが、PIONEERのRunawayの高級機SK-900 。80年代初期のこの機種は、ステレオ3Wayスピーカーにグラフィック・イコライザーまで装備。殆どミニ・コンポである。なるほど、音の方も当時の音楽志向が見えてくるようだ。シャカシャカとハイハットの強調される爽やかなな高域と、タイトに”引き締めたい”中域が、いかにもフュージョンやニューミュージックに似合いそう。まるで、テニスルックに真っ白な歯といった感じのサウンドだ。
それならと、出てきたもう一機種は、SHARPのTHE SEARCHERの高級機W GF-999。これも殆どコンポのような重装備ラジカセ。やはり3wayスピーカーだが、うち一つはスーパー・ウーハーとなっている(といっても、となりのスコーカーと口径は変わらないのだが)。アンプも”スーパー・ウーハー”専用を持つバイアンプ構成。音の方は、先のRunawayとは対照的で、いかにも低音を強調したマッチョな作り。なんとなく、ニューヨークのブラザーが肩にかついでいそうだ。
もうこうなったら止まらない、次々に珍しい機種が登場してくる。アルミ削りだしの筐体を持つバブル期の逸品、ダビングマシンのようなトリプルカセット、さらには懐かしいカセット・テープの数々と、ラジカセ三昧の宴は果てることなく続くのだった。
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いや〜本当にディープな場所でした。快くご協力頂いたDESIGN UNDERGROUND 松崎様には大変お世話になりました。これまでの連載を読んで、ラジカセが欲しくなってしまった人は、ぜひこちらDESIGN UNDERGROUNDホームページをご覧下さい。青春の思い出の製品に出会えるかもしれません!
Rock oN 担当 リュウジ
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高山博プロフィール:アレンジャー/コンポーザー。クラシックはもとより民族音楽からポップス、ロック、アニメ音楽まで幅広い知識と 経験を 持ち、CD、TV、劇伴、イベント等、幅広い分野で活躍中。コンピューターと シンセサイザーを使った音楽制作にもその最初期から取り組んでおり、作品のクオリティの高さには定評がある。Rock on CompanyでもKeyboardMagazine連動セミナーでおなじみ。
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【目次】
第三回 竹ノ塚でラジカセ三昧
「STAR WARS フォースの覚醒」はどのように作られたのか
今年のRock on AWARD2016は掲載されていない製品にもどんどんとうひょうできます![...]
クロスフェード…それはCreatorとProductの化学反応[...]
RME Babyface Pro発売を記念し、創業者マティアス・カーステンズ氏インタビュー[...]
『シンセサイザーの楽しみ』ともう一度向き合おう。情熱とこだわりがシンセの歴史を変えて行く!キーマンのお二人に直接インタビューをすることができました。[...]
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