※弊社メールマガジン「ROCK’in MAILMAN」2008.7.4号〜2008.12.19号まで連載された、高山博さんによるコラム「東京音楽散歩」を再掲載しています。
第一回 百軒店の音楽喫茶
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百軒店から音楽喫茶ライオンへ (掲載日時:2008年7月11日)
第一回の散歩は近場の、渋谷百軒店でユルユルと音楽喫茶めぐり。渋谷駅から109の三叉路を左にとり、道玄坂を10分ほど上ると百軒店(ひゃっけんだな)入り口が現れる。待ち合わせの時間に到着したら、同行取材&カメラ担当のロックオンカンパニー・リュウジくんは、すでに待ってくれていた。いやあ、さすが抜群のサポートである。
今回の目的は、ここ百軒店のなんとなく気になるお店「音楽喫茶ライオン」と「ロック喫茶BYG」探訪だ。 「それじゃ」「ではでは」などと挨拶しながら、なんとなく百軒店商店街へと入っていく。ここは入り口すぐのところに「道頓堀劇場」というストリップ劇場があって、なんだか気恥ずかいしい。ちなみに、一説によると、元々「道玄坂劇場」として看板を発注したのに、間違って出来あがってしまったのが名前の由来とか。なるほど「道頓堀」のほうがなんとなく“本格的”な感じがしなくもない。
男二人、なぜか早足になりながら、そそくさと劇場前をすり抜けると、すぐに“Music From BYG”のピンクの看板、さらにその向こう隣に“名曲喫茶ライオン”の緑色の看板が見えてくる。どちらも年季の入った建物だ。特にライオンは昭和元年創業の建物が戦争で焼けたのを、昭和25年にそのまま再建したということで、独特の西洋風というか、当時の日本人のヨーロッパへの憧れが形になったかのような雰囲気がある。裏はどうなっているのかと、建物の反対側の通りに回ってみたら、ちゃんと裏口があった。扉上部がドーム型のステンドグラス風になっていたりして、むしろこちらの方が立派なくらいだ。
ついでに、近所のビルにのぼって、上からの景色も眺めてみた。高層マンション化の進む中、そこだけ取り残されたように、昭和の屋根が並んでいる。
百軒店の雑踏をフィールドレコーディング
街の雰囲気をお楽しみ下さい。
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現在の百軒店は正直言って8割ラブホ・風俗街ですよ。音楽的にはオンエア、エイジア、WOMBなどのライブハウスやクラブが表の顔ですが、紙一重にこんな音楽スポットが存在するなんて知りませんでした。さて、次回からもっと(音楽的に)興味深いゾーンに足を踏み入れて行きます!
Rock oN 担当 リュウジ
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音楽喫茶ライオン探訪(掲載日時:2008年7月18日)
さて、いよいよ「音楽喫茶ライオン」店内へ。外観同様、室内も洋館風。シャンデリアが吊るされ、2階のバルコニー席へは螺旋階段が連なる。どこも古びてすすけているのが、いい味になっている。正面には巨大な暖炉のようなスペースが設けられ、オーディオセットが鎮座する、さらに両端には、高さ3mはあろうかという、巨大なスピーカーシステムがそびえ立つ。
一階の客席はこのスピーカーに向かって、劇場のように配置されている。入る前に、この手の店は初めてのリュウジくんに、店内は私語禁止だからねと言ってビックリされたのだが、そういうこと。ここは音楽を聴きに来るための店、一種の音楽ホールなのだ。たとえばこの店が再建された翌年の昭和26年に、日本発のLPレコードが発売されるのだが、その値段が2,600円。今のCDと同じだと思うかもしれないが物価がまるで違う。公務員の上級職ですら初任給が6,500円、もちろんレンタルもFM放送もない。そういう時代に、贅沢なオーディオセットを揃えてレコードを聴かせたのが「名曲喫茶」なのだ。
店に入るとバッハの管弦楽組曲が流れている。レコード特有のスクラッチノイズが懐かしい。曲が終わって次の曲をかける前に、おねえさんがマイクで演奏者と曲名をアナウンスするのがいい。こうして、いろいろな人がクラシック通になっていったのだろう。
暗い室内に目が慣れてきたので、オーディオ機器周辺を観察。古いラックにカスタムメイドらしい年代モノのアンプが並んでいるのだが火が入っていない。ごく普通のSONYのコンボアンプなどを使用していた。スピーカーには。スーパー・ツイーターも追加されているが、そちらの音は出ていないかもしれない。それでもメインの木製ホーンだけで8発のスピーカーが見える。このシステム、よく見ると左右非対称になっている。右の方のスピーカーが大きく、またツイーターホーンは左にだけある。おそらくこれで、モノラル録音のオーケストラを聴くと、右に低音楽器が来る生オケに近い定位になるのだろう。
現代のハイファイ・オーディオとは全く異なるサウンドは、なんだか妙にまったりする。レトロな店内も渋谷の一角とはとても思えない。まどろむように、ゆっくりと時間が過ぎていく。
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まるで岸田今日子が「ご主人様、お茶をお持ちしました。。。」と出て来そうな雰囲気。ガムシロップが最初から入って出てくるアイスコーヒーも久しぶりに頂きました。ちょっと先では耳に張り付く音がやかましくがなり立てる渋谷で、まったりとした優しい音が聞ける異空間。BGMとして格下に扱われることなく、音楽が第一の存在として扱われ、真摯な姿勢で音楽に向き合える素敵な場所でした。
Rock oN 担当 リュウジ
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百軒店散歩(掲載日時:2008年7月25日)
音楽喫茶ライオンを出て、すぐに隣のBYGに入るのも何なので、しばらくあたりを散歩する。なんで名曲喫茶というものが存在するのか、さっぱりわからない風のリュウジくんに、昔のレコードの値段などを話したりする。「なんだか映画館みたいでしたね」とリュウジくん。なるほど、昔の映画館のようにも見える。これから大画面テレビとHDDVDが普及すると、もしかしたら将来、今の映画館も名曲喫茶のような運命をたどるのかなぁ、などと思いながらブラブラ。
百軒店は、関東大震災の後、東急グループが開発した商店街。当初は銀座の名店などが避難してきて店を出していたらしい。今では××マッサージや××ホテルの看板が目に付く、渋谷の表通りとはまた違った意味の、ファッションの街になってしまっている。
この百軒店界隈は、70年前後には、ロック喫茶、ジャズ喫茶の並ぶ街としても有名だった。なんでも十数軒が軒を並べていたそうだ。その頃のレコードも、やはり今と同じ値段。若者が自由に買うにはまだまだ高すぎた。おまけに、今ほど洋楽の情報もない。そこで、ジャズやロックをかける喫茶店がそういった情報の発信源となり、ちょっとした若者文化の中心地のようになっていた。殆ど誰も知らない時期に日本にブリティッシュ・トラッドを紹介した「ブラック・ホーク」など、今でも伝説のように語られている店も少なくない。
百軒店を歩いていると、確かに“ファッション関係”が目立つのだが、それでもよく見ると、今でもジャズバーやブルースバーがポツポツとあって、うれしくなってくる。また今度訪ねてみよう。
とはいえ、夕方のあやしい時間というせいもあるのだろう、男二人で歩いていると、それ系の呼び込みにもよく声をかけられる。「団体割引ありますよ」には笑ってしまった。
坂道を降りると、OnAirなどが並ぶ一角。何があるのか、派手なメイクのゴスロリ少女たちが道に迷ってウロウロしている。通り掛かりのおじさんが「そいったのは、向こぅっかわで、やっつるよっ」と江戸っ子っぽい口調で教えているのがおもしろい。確かにおじさんには「そういったの」だ。
千代田稲荷を回って、BYGへと戻る。どこからともなくモダンジャズが流れている。
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静かな裏通りから不意に出た通り。「なんだ、ここに出るんだー」という感じで、そこは、よく知っているOn AirやClub Asiaといった クラブが軒を連ねる道でした。新しい音楽を求める人たちを自然と集めてしまうような磁場が、昔からずっと、百軒店から放出されてたりして??
Rock oN 担当 リュウジ
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ロック喫茶BYG探訪(掲載日時:2008年8月1日)
BYGも、渋谷百軒店の伝説的な店の一つで、開店は71年。店名はBeutiful Young Generationの頭文字らしい。この店が伝説のように語られるのは、当時唯一といっていいロックのできるライブ・スペースを備えていたこと、そしてそこを切り盛りしていた「風都市」というマネージメント・グループが、「はっぴいえんど」や「はちみつぱい」などのライブを精力的に行ったことによる。
60年代の政治の季節が終わり、まさにビューティフルの時代が始まったと言われた頃(本当にそんなCMコピーがあったのだ)。激しいメッセージをぶつけるフォークやロックから、都市の若者のマニアックでソフィスティケイトされた趣味を映し出すニューニュージックへと、変わりゆく時代の交差点に存在したのが、このBYGだ。
夕方5時に開店したばかりの店に入ると、僕達が最初の客のようで、音楽はまだ流れていない。さっきコーヒーを飲んだばかりだし、ビールには少し早いので、僕はグレープフルーツジュース、リュウジくんはジンジャエールを注文する。男二人でジュースを飲むなんて、考えてみれば変な客だ。
店内は、ウッディな作りで、ニールヤングの大きなポスターがあるのが、いかにもそれっぽい。「はっぴいえんど」の名前のある70年当時のライブ告知も貼ってある。そのうちに流れてきた音楽は60年代初頭のオールディーズ・ポップス。ちょっと意外だったが、考えてみれば、これもまた相応しいのだろう。
意外といえば照明の明るさ。昔、僕がよく行っていたロック喫茶は、テーブルの表面だけがかろうじて判別できるくらいで、奥で何をしてもわからないような、うれしいようないけないような暗さだった。だが、その明るい照明のせいで、店内に無数にある落書きがよく読める。細野晴臣からSuperflyまで、様々な名前が所狭しと並んでいる。解読していくとなかなかおもしろい。中には親子で並んでいたりする。
そのうちに、ポツリポツリとお客さんも入ってきた、曲も、おそらくそっちの方がこの店の定番だろう、ザ・バンドに変わっている。ここもまたゆったりとした時間が流れている。さっきみた、ゴスロリ少女達は、今ごろライブで熱狂しているのだろうか。
BYGの開店から数えても40年近く、隣のライオンからだともう100年以上、渋谷はずっと音楽の街だ。地層のように積み重ねられた音の記憶が、街の磁力となって、今も人を引き寄せている。
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BYGではライブも行われており、ラインナップにはベテランに混じって若いアーティストの名前も。顔ぶれを見れば「はっぴいえんど」チルドレン的な名前が並ぶ。ここでライブを見れば、当時流れていた「街の風」が感じられそうです。ここは日本語ロックの聖地なのでしょうか。
Rock oN 担当 リュウジ
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高山博プロフィール:アレンジャー/コンポーザー。クラシックはもとより民族音楽からポップス、ロック、アニメ音楽まで幅広い知識と経験を 持ち、CD、TV、劇伴、イベント等、幅広い分野で活躍中。コンピューターと シンセサイザーを使った音楽制作にもその最初期から取り組んでおり、作品のクオリティの高さには定評がある。Rock on CompanyでもKeyboardMagazine連動セミナーでおなじみ。
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【目次】
第一回 百軒店の音楽喫茶
「STAR WARS フォースの覚醒」はどのように作られたのか
今年のRock on AWARD2016は掲載されていない製品にもどんどんとうひょうできます![...]
クロスフェード…それはCreatorとProductの化学反応[...]
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