Aran Dickson氏がオーナーを務めるGrandmaster Recordersスタジオ。その裏口にあるシャッターをくぐった先にAURORA AUDIO社のガレージ工房は位置する。今回は Alan 氏、そして同社技術顧問エンジニア Geoff Tanner 氏に貴重なお時間を割いていただきインタビューを行った。
1:Alan 氏とGeoff 氏 NEVEが結ぶ出会いとAURORAの誕生
1971年より創業を開始したGrandmaster Recordersスタジオ。
http://www.grandmasterrecorders.com
そのメインコンソールである NEVE 8028コンソールが1986年に故障したことから二人の運命、AURORA AUDIOの運命は動きだす。当時の様子を療養中のAlan 氏をサポートするようにGeoff 氏が語ってくれた。
Alan:「当時ハリウッド及びLA全体でも、8028のリペアができるエンジニアは存在せず、当時AMS NEVE側にかけあってみたがNEVE Electronics時代のコンソールリペアは受付をしてくれなかった。
そこで当時NEVEの役員を務めていたDavid Langford氏を通じて、過去NEVE Electronicsでのカスタムワークや、85年退職まで多くのメンテナンスに従事していたGeoff氏の紹介を受けたんだ。」
Georff:「85年に退職するまで多くのカスタムモデル制作やリペアを請け負っていたからね。バックボーンを説明すると、71年当時私は新聞でNEVEの求人広告を見た時、ケンブリッジに移住したかったのもあって迷わず応募したんだ。自信はあったけど、面接の時に回路モジュールを見せて、幾つか質問を受けただけで採用になったよ。」
Georff:「最初の数ヶ月の仕事は回路図作成だったが、2-3ヶ月後に当時の部署長の移動に伴い部署長になったんだ。当時のNeveには社内で統一した基準がなく、認識がばらばらで、製造に際して基準となるような書類などもなかった。
1073をはじめあらゆるプロダクトに関わったが、コンソールもモジュールも、全てがカスタムオーダーの繰り返しだったんだ。そこでデザイン方法、テック・インフォメーション・シートを作成した。製造ノウハウの統一、仕様書化を実現することで今の礎を経験することができた。
その後、先ほどのAlanの話にもあったように当時既存プロダクト販売に重きを置いていたAMS NEVE社を95年に去り、ちょうどその翌年に8028のリペアを通じて知り合ったんだ。」
NEVE8028コンソール通じ出会った二人。その後互いのビジネス成功へ向けてAlan氏はGeoff氏、そしてDavid氏とともにPhoenix Audioを設立。その後数年を経て二人を中核としてAURORA AUDIOは誕生します。そこで二人が目指したコンセプトとは?
次はAURORA AUDIOが持つプロダクト開発コンセプトに迫ります。
2:NEVEの過去と歴史が紡ぐAURORA AUDIOの未来
Geoff:『多くの人々はAURORA AUDIOのことをNEVEクローンと思っているようだがまったく違う。厳密なコンセプトのもと、高品質なトランス、グランドループに対する細心の注意、Class Aディスクリート回路へのこだわりを持ってプロダクトデザインを行っている。
トランスは未だに最良のバランスアンバランス変化のパーツであるし、アナログデザインを行う際にグランドループは外すことの出来ない問題だ。そして、サウンドを決定づける回路はClass Aのディスクリート。これは今も昔も変わらない鉄則だ。これらの設計にとって大切な事柄をコンセプトの主体としている。
決してNEVEのクローンを作っているのではなく、そこで学んだ長年の経験を活かしユニークなオリジナルのプロダクトを製造している。また『MTBF=平均故障率』という考え方も導入し、デジタルの測定器なども導入を行い細心の設備で細心の設計としてプロダクトのデザインを行っている。
それにクローニングという観点でいえば、成功と呼べるプロダクトを生み出すことは難しい。例えばある人が求めるクローニング、それはいつのバージョン?年代は?なんてわからないからね。
まったくのカスタムデザイン、オリジナルNEVEが持っていた今でも良質で必要な技術を使うこと、つまりNEVEを彼の経験から進化させたものこそがAURORA AUDIOのコンセプトなのです。」
3:最新作Stingerを始め、あらゆるプロダクトデザインを一手に担うGeoff氏
GTQ2から最新Stingerまで、AURORA AUDIO社のプロダクトデザインには各スタッフがどのように関わっているのか、会社の組織構造についてもGeoff氏に伺った。
Geoff氏:「製品アイデアや回路設計、デザインなどは基本全て私が行っている。今の会社組織は15名ほどだが、ガレージのスタッフはパーツ単位でテストとアッセンブルの工程を主に行ってもらっているんだ。製品の開発において、この工程は最も長く重要なものなんだ。例えば最新作のStingerも開発には2年半を費やしているんだよ。
Stingerの話ついでに少し言わせてもらえれば、レコーディング初心者の方にはインピーダンスに注意して録音を行って欲しいね。本製品のGuitar D.Iがいかに有効かなど、基本に立ち返ってほしいと思っている。
また製品ついでで話せば、最近では500シリーズのモジュールを作ってほしいという話がある。が、私は500シリーズが嫌いなんだ。何故ってモジュール単位では電源もサウンドもコントロールができないからね。
つまりシャーシの電源容量不足(シャーシ性能に依存)、隣接するモジュールの影響によるノイズや干渉(モジュール種別に依存)。基準を満たしていないモジュールが多数、存在することなど。1プロダクトの性能、コントロールという観点からはラックサイズがベストだと私は考えている。」
4:Grandmerter Recorderスタジオツアー
今回のインタビュー前にはGrandmerter Recordersスタジオの機材を拝見させていただいた。同社HPにもあるように名だたるアーティスト達のサウンドを紡いだ珠玉の機材達やスタジオの様子をご覧いただきたい。
スタジオの入り口。看板は『Grandmerter Recorders』と『AURORA AUDIO』のダブルネーム。Grandmerter RecordersのレコーディングスタジオもAURORA AUDIOの工房も同じ建物の中にあります。
スタジオ裏のガレージの中は…。
なんと駐車場のの片隅にAURORA AUDIOの工房が!
続いてはGrandmerter Recordersへ。
USのスタジオ独特の装飾と佇まいに感心しながら奥へ進みます。
途中いくつものゴールドディスクやプラチナディスクが飾られています。
Tool、Foo Fighters、NIN、Gwen、RHCP、意外なところではKillingJokeと錚々たる顔ぶれのクライアント達。彼らがここGrandmerter Recordersで名盤を生んでいったんですね。
Wood Room
その名の通り、木材がふんだんに使われたレコーディングルーム。
ブースの角には日本のスタジオではあまり見かけない屋根状の装置が天井からぶら下がっています。
ここはれっきとした録音ブースで、天井を低くすることであえて狭い部屋で録音しているかのようなアンビエンスを作り出すということです。
Cement Room
Grandmerter RecordersではこのWoodRoom以外に、Cement Roomという名の通りセメント壁が壮大なアンビエンスを生むレコーディングルームもあります。本来はドラムを録音することが主だということですが、今日はYAMAHAのカスタムピアノが設置されていました。
このYAMAHAピアノは「5番目のビートルズ」とも呼ばれ、実際にビートルスのシングルのクレジットに名を残すBilly Prestonのためにカスタム調整されたもの。いくつもの名曲を録音した伝説のピアノです。それが目の前、すぐ手の届くところに…。
ここからはWoodとCementの両ルームの機材を合わせて一気に見ていきます。
NEVE 8024
スタジオの顔とも言えるコンソールはNEVE 8024。Moduleには1084と1073が。年季を感じさせる部分もありますが、工房が隣にあるために内部は非常にきれいな状態。世界的に見てもコンディションの整った一台なのではないでしょうか。
NEVE 1084 module
誰もが憧れるNEVE 1084 module。機器の説明はもはや不要のヴィンテージNEVEの代表プロダクトの一つ。
外装は、年代相応ですが、内部はピカピカに磨かれ非常ni良い状態にメンテナンスされていることが分かります。中空配線でソケットに信号線が伸びソケットには各機能を提供する基板が刺さるというメンテナンス性も考えられたプロダクトだということがわかりますね。
STUDER A827
Analog Multitrack RecorderはSTUDER A827が鎮座。
2inch – 24trckのモデル。これはSTUDERのアナログマルチの集大成とも言える機種で、使い勝手の良さとメンテナンス性の良さが魅力の一台。他の機材にも言えるのですが、古いだけにこだわらずに機能的にも優れているものをチョイスしている印象を受けます。
Fairchild model 670
今や、市場では価格が高騰しすぎて憧れの存在でしか無い、至高のアウトボードとも言えるFairchild model 670。
サビも目立たずに非常にきれいなコンディション。内部は、しっかりとメンテされていることは容易に想像できますね!是非とも触ってみたい…。
DBX 160 , Pultec EQ-H3
こちらは、定番とも言えるビンテージ2機種。DBX 160とPultec EQ-H3。
現在も脈々と受け継がれるDBXの代表作160のオリジナルプロダクトがこれ。VCAを利用したそのリニアなコンプレッションサウンドは現在でも十分に通用する物。
もう一つはプラグインとしても各社がリリースするPultecのMid-EQであるPEQ-2のアクティブモデルEQ-H3。Mid-Frequencyに特化したプログラムEQの代表作ですね。
アウトボードラック1
見慣れた機器が多く入るアウトボードラック。
NEVEのコンソールがあるということでダイナミクス系が中心。上からTELETRONIX LA-2A、Universal Audio 1176LN(ビンテージではなく現行品!)、Focusrite RED3、Empirical Audio Distressor、Drawmer 201B、Valley People 440。
アウトボードラック2
先ほど紹介したDBXとPultecの上部には、ご覧のように上から、Klark Technic DN27、Avalon Design 737、Aurora GTQ-2と並びます。いいと思う機材をビンテージだけにこだわらずに幅広く揃えていることがわかりますね。Pltecの更に下段の機器はAphexのGateになります。
API 500 Module ラック
500シリーズは、APIを駆動するため!と言わんばかりに新旧の312が刺さっています。
オリジナルの312が上段に下段はBrent Avielの312とオリジナルの550Aが。左側のモジュールはB&B AudioのEQとCOMPです。
写真の下に切れてしまっていますが、RCA,ALTECと書かれたテプラが見えますが、こちらは、HPに掲載されているRCA Tube PreとALTEC Tube Preが接続されているものと思われます。
モジュールでしか存在しないこれらのTube Preがこのラックに埋まっていると思うと、なんとかその姿を見てみたくなるものですが…時間がありませんでした。こちらは次回のお楽しみということでご容赦下さい。
長い初日の最後は日本ではまだまだ大型シネマのみの『DOLBY ATOMOS』搭載映画館WESTWOOD VILLAGEの前で1枚!
明日のArrival第二弾はLine6本社取材でマーカルライル氏と再会を果たします! そして事前発表されているKORG ODYSSEYイベントの模様も速報いたします! お見逃しなく!!
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