NAMM 2014

Winter NAMM2014 : Earthworks 本社取材インタビュー

NAMM2014 ブランド ディープレポート。本社取材&インタビューでブランドのヒストリーを紹介し、人気製品が生まれるワケを御届け!Earthworksのテクノロジーファーストを標榜する生産・研究拠点である本社でHeidi B Robichaud 氏Daniel Blackmer氏にお話を伺いました。

NAMM2014 Earthworks工場内

ニューヨークからは北東に向かいおよそ300km、ボストンからも更に北へ150kmほどのニューハンプシャー州ミルフォードにあるEarthworks本社へ向かった。dbx創設者のDavid Blackmer氏をルーツに持つ同社。元来M30に代表される測定マイクで確固たる実績を持つが、近年国内でも特色あるラインナップと解像度が高いサウンド、そしてその生産クオリティによりその評価を高め、最先端の音響技術をフィードバックした製品は多くの現場で導入が続いている。そのテクノロジーファーストを標榜する生産・研究拠点を取材、President Heidi B Robichaud 氏とDavid氏の実子でもある同社Director of Engineering Daniel Blackmer氏にお話を伺った。

【父David氏の理想を象ったEarthworksというフィールド】

Q: Earthworks の創業の経緯、沿革についてお聞かせいただけますか?

Daniel Blackmer(以下DB): Earthworks は私の父、David Blackmer がdbx社を売却した後に、自身の研究、自分のやりたいことを追求するために創業した会社です。しかも、今の事業内容からは想像がつかないと思いますが、建設業として創業しました。Earthworks という社名も建設業にふさわしい名前として名付けられたものです。その後、Davidはかねてより不満を抱えていた再生音楽の音質を改善するためにスピーカーの開発を手がけ、開発中にスピーカーの特性を測定するマイクのクオリティに納得がいかず、自分の手で開発を始めたのがマイク製造のきっかけです。

Q: 創業当時はマイクの生産をしていなかったのですか?

NAMM2014 Daniel Blackmer 氏

Director of Engineering
Daniel Blackmer 氏

DB: 父の理想とするスピーカー製作のために、オーディオ部門ができたのですが、そちらも研究、開発を目的としたラボに近いものでした。実際、Earthworks としての最初のマイクのリリースは創業から6年後のこととなります。ちなみに、この施設、建物の電源は全て、施設から程近い水力発電所より供給されています。これは、もともとは石炭火力発電所だったものを父が近くの川にダムを作り、水力発電所へとコンバートしたのです。

Q: Earthworks の創業者にして VCA コンプレッションの生みの親。そして dbx の創業者でもある、David Blackmer について教えていただけますか?

NAMM2014 創業者 David Blackmer 氏

創業者 David Blackmer 氏

DB: トゥルーRMSディテクターを発明してdbx社を創業する以前よりエンジニアの仕事をしていました。第二次世界大戦が終了する1945年にハイスクールを卒業した後、レーダー・システムのエンジニアとして米国海軍に入りました、しかし、海軍に入って間もなく、第二次世界大戦が終了したため、ミリタリー・システム企業のレシオン社に就職しました。レシオン社はレーダーを発明した企業で軍と密接な関係を持っていた企業です。レシオン在籍時にはマーキュリー計画のコミュニケーション・システムの開発などにエンジニアとして携わっていました。その後、レシオン社から医療機器企業に移りました。そこからパーフェクトなトゥルーRMSディテクター回路の研究、開発に没頭しました。オーディオの世界へと進んだ経緯は私も把握していません。実際のところdbx社のRMSディテクターの最初のアプリケーションはGM社の自動車に搭載する電気回路の検査、検証のための測定器でした。当時、他のRMSディテクターではプローブを接点に指し、メーター針が安定した表示になるまで、時間が必要でした。Davidが開発したディテクターはプローブを指すと、即座に表示が安定して読み取り可能になりました。おかげでGMのテストに要する時間は大幅に短縮されました。ちなみに、dbxはデシベル・エクスパンションを省略したものです。今となっては不思議な感がありますが、dbxはもともとはオーディオのために創業されたわけではないのです。トゥルーRMSディテクターがdbxのコア・テクノロジーだったのです。その後、Davidはコンプレッサーに核心をもたらすVCA( ヴォルテージ・コントロール・アンプ)の開発に成功します。VCAもまたdbxのコアとなります。

Q: David はオーディオにあまり関心がなかったのでしょうか?

NAMM2014 Daniel氏が持つのはボディの原材料となる18インチのステンレス素材、ボディのアコースティックに配慮して素材加工も自社で行っている。

Daniel氏が持つのはボディの原材料となる18インチのステンレス素材、ボディのアコースティックに配慮して素材加工も自社で行っている。

NAMM2014 ボディ部分とチップ部分はマッチングが行われている。上下でナンバリングがされているのが確認できる。

ボディ部分とチップ部分はマッチングが行われている。上下でナンバリングがされているのが確認できる。

NAMM2014 指先につかまれているのはメタルスクリーン。このパーツを組み付けるにもずれてしまってはアコースティックに影響があるため、専用の治具も自社で作成し慎重な作業を確実に行っている。

指先につかまれているのはメタルスクリーン。このパーツを組み付けるにもずれてしまってはアコースティックに影響があるため、専用の治具も自社で作成し慎重な作業を確実に行っている。

Heidi B Robichaud ( 以下: HR) : 彼は子供の頃よりオーディオに高い関心を持っていました。子供の頃より、壊れたラジオを修理して、コレクションしていました。ハイスクール時代にはボストンのラジオ商で修理の仕事をとっていました。それにベビーシッターが残したDavidの逸話では3歳の時にはピアノの下に音楽を聴きにきていたそうです。彼はクラシックが大好きで、それが故にホールで聞く生のサウンドと再生音楽との音質の差について常々不満をもっていました。レコードから、テープ、CD、そしてSACDなど新しいテクノロジーが発表されると、全て自分の耳でクオリティを確かめていました。また、たとえベスト・マイク、ベスト・アンプ、ベスト・スピーカーを使用しても、生で聴いたときのリアルなサウンドからは程遠いと不満でした。そこで、ライヴで聴いたサウンドがリアルに、あたかも目の前で演奏しているかのように再生されるオーディオ・システムについて研究を深めることとなるのです。
DB: Earthworksはもともと、プロダクトを生産することを目的とした企業ではありません。Davidの理想のオーディオの製造のための研究、開発を目的としていました。当時はすでにセミリタイヤを考えていた時期で、ビジネスというより理想を追求した趣味に近かったのです。実際のところ1989年に創業して、最初の製品が発売されたのが1995年。6年もリサーチに費やしているのです。建設業をはじめた理由も本人が好きだったからに他ありません。

Q: DavidがBSR(Birmingham Sound Reproducers)にdbxを売却した理由は?

DB: dbxは既にビジネスが確立しており、dbxの経営より、新たな技術開発への関心が強くなりました。そこにDavidが生み出した技術、名前、製品の販売に関心を持つ企業が現れたので売却することにしました。残念ながら、新体制dbxは販売には興味があってもDavidの新技術を生む力には関心が高くはありませんでした。David そしてEarthworksは一般的なメーカーとは異なり、プロダクトの開発より新しい技術の開発に重点をおいています。テクノロジー・ファーストで、次にそのテクノロジーをユーザーの希望を叶えるソリューションとなるプロダクトを開発します。Earthworks を創業して、しばらくはR&Dが業務の大半を占めていました。先ほど申し上げた通り、最初の製品の発売までに6年も費やしているのです。また、当時の彼は水のリサイクル・システムの開発に成功しました。他にも、様々な研究がなされていました。残念ながら上手くは行きませんでしたが、アコースティク・バッフルにドライバーからの音を流し、生まれる定在波を活用した人口降雨機も考案していましたよ。

【Daniel氏が切り拓くEarthworksの可能性】

Q: Daniel のバックグラウンドとエンジニアを志した理由は?

DB: もともとはビジネスを学ぼうと思っていたのですが、ある日、Davidが体調が芳しくなかったので病院にいったところ、ガンがあることが分かりました。そこで、カレッジに進むのを延期し、代わりに彼と一緒に働くことにしました。彼が亡くなるまでの8ヶ月は素晴らしい時間でした。いっしょに歩きながら話をしているだけで、彼のものの考え方、そして研究、開発のプロセスが理解できました。常にある種のクレイジーなアイディアを持っていて、上手くいくことも、行かないこともありました。そして彼は失敗から何かを学びとっていました。私も常々何かを作ること、開発することに関心を持っていました。そこで、もとよりコンピューターも好きだったので、大学ではエレクトロニクスとコンピューターを専攻し、両方の学位を取得しました。実際に自分も父と同じように研究、開発は好きなので、父の跡を継ぐことにしました。

Q: 大学で専攻したコンピューターを活かした製品開発の予定は?

DB: 今のところ、Earthworks の製品に活用したことはありませんが、社内のデータベースなどのITに関する業務には活用しています。今後について具体的に決まっているものはありませんがFPGAなどを搭載した製品も将来はあるかもしれません。色々とアイディアはあるのですが、具体的には未定です。

NAMM2014 米・ニューハンプシャー州ミルフォードの本社。周囲は米国内でも自然保護区域が点在する自然に囲まれた環境。

米・ニューハンプシャー州ミルフォードの本社。周囲は米国内でも自然保護区域が点在する自然に囲まれた環境。

【テクノロジーファーストによる科学的にパーフェクトな製品】

Q: Earthworks マイクの技術面での特徴は?

DB: David が開発したキーとなる技術の特徴は一つではなく、マイクの特徴もそのコンビネーションで生まれます。彼が開発したプリアンプは幅広い周波数帯をフラットに再生します。指向特性に関して言いますとアコースティック構造が大きな意味を持っています。カーディオイドに関していうとチップからボディ部のシェイプに大きな意味があります。オムニマイクに関していうと、チューブの端にあるカプセルとボディの距離が重要です。いずれもアコースティックに優れるようデザインされています。これらを実現するために、アナログ回路に対しての正しい知識と金属加工技術、優れたアコースティック・デザインが重要です。ボディの形状も含め、科学的にパーフェクトなマイクはカーディオイドではSR30、オムニではQTC40です。故にDP30/C, FW730などカーディオイドではSR30をベースに、アプリケーションに合わせてチューニングしたモデルがリリースされています。

Q: カプセルやエレクトロニクスにばかり注目が集まることが多いですが、マイクの形状なども意味があるのですね。

NAMM2014 カプセルの測定を行いf特、IRなどのチェックを行い調整されたパーツのみが次の工程へ進める。

カプセルの測定を行いf特、IRなどのチェックを行い調整されたパーツのみが次の工程へ進める。

NAMM2014 こちらは第二関門のフィルターテストの様子。距離を一定に保つための治具など独自の工夫が随所になされている。

こちらは第二関門のフィルターテストの様子。距離を一定に保つための治具など独自の工夫が随所になされている。

NAMM2014 そして第三のチェックは指向性の検証となる。入念に時間を掛けて行われる生産はハンドメイドならではであろう。

そして第三のチェックは指向性の検証となる。入念に時間を掛けて行われる生産はハンドメイドならではであろう。

DB: もちろん、どれも重要ですが、ボディによるアコースティックの影響も最小に抑えるようデザインしています。ボディの形状やウインドスクリーン等が原因で位相ずれがおきます。実際にM23とM30でもアコースティックに変化があります。M23はスペースに限りがある顧客のリクエストに応えるため開発されました。そのため、M23では長さがM30とは異なります。M23のほうがチップとボディの距離が近くボディによるレゾナンスが生じます。 そういったユーザーの使用環境、リクエストなど様々な要素についてのトレードオフを検証しながら完成させます。

Q: 周波数特性が40k、50kまで広がっていますが、そのコア技術は?

DB: プリアンプのフィルターです。40k, 50k まで特性がフラットなフィルターを用意し、更にカプセルの特性に合わせてチューニングしています。オーディオの世界には人によって好みがあり、カラーを求める方もいらっしゃるので一概に良いとか、悪いとかは表現できません。但し、Earthworks は製品哲学として「科学的にパーフェクト」を掲げています。それに、テクノロジー・ファースト、そして生み出した技術を用いてお客様のご要望に応える製品を生み出します。そのために、製造工程では繰り返しテストを実施します。

Q: 簡単に製造時の検査について教えていただけますか?

DB: Earthworksの生産プロセスはあたかも検査と検査の間に生産プロセスがあるかのようです。マイクの音質、性能に関しては完成まで3回の検査があります。まず、カプセルを測定します。MLSSAとオリジナルのジグを駆使し、周波数特性、インパルス・レスポンスなどを測定します。インパルス・レスポンスの測定にはスパーク・ジェネレーターを使用し、スパークへのレスポンスを測定します。次にカプセルの特性を測定し、その特性に合わせてフィルターを調整します。そのテストでもMLSSAを用いて、カプセルとフィルターのコンビを作ります。最後にアッセンブルが完了したら、ここまでの2回と同様のテストに加え、マイクの距離による音の変化、感度、指向性のチェック、ヒアリング・テストを実施し、全てに合格しましたら、外観検査を経て、パッケージングに進みます。一般的なマイク・メーカーより項目、回数ともに試験項目が多く、あくまでも「科学的にパーフェクト」な製品だけが出荷されます。

Q: 「科学的にパーフェクト」な製品と実際の使い勝手は折り合いがつくのですか?

NAMM2014 PM40

ピアノのマイキングに全くの新発想で臨んだPM40。40kHzまでフラットな特性。

DB: 新製品の開発は、顧客からのリクエストによるもの、自社アイディアによるものなど様々です。アプリケーションや開発の経緯によって完成までのプロセスは異なります。具体例で言いますと、SR40VはSR40をヴォーカル用にリファインしたモデルです。シンガーが慣れ親しんでいいるサイズにボディを太くし、メタル・グリル・スクリーンを装着しました。そのため、アコースティックがSR40とは大きく異なります。アコースティックによるサウンドの変化の調整に試行錯誤しました。更に、ジェームス・テイラーとキャロル・キングのリユニオン・ツアーのFOHエンジニアのデビッド・モーガンがベータテストとして現場で使用し、現場で使う上でのアイディアについて意見をもらいました。具体的にヴォーカルやナレーションを際立たせるために特定の周波数帯をわずかに強調しています。また、顧客からのリクエストで開発したモデルがIM-3, IM-6などのInstall シリーズです。これは世界的なIT企業からのリクエストで開発しました。美観に拘りが強いことで有名な企業ゆえに最初は、グースネックの長さを1インチにとのリクエストでした。天井埋め込みマイクでグースネックの長さが1インチしかないと、天井からの反射が強く、アコースティックに問題があることは明白です。その点を説明しましたが、理解してもらえせん。そこで、1インチ・モデルと3インチ・モデルを渡して音質を比較してもらいました。結果は3インチが採用になりました。新製品開発はこのようにケースバイケースです。Earthworks の開発方針としては、第一に画期的な技術の開発、そして、その技術を応用してユーザーの抱える問題を解消したり、画期的なマイキングを提供することです。EarthworksマイクではPM40がその典型です。40kまでフラットでインパルス・レスポンスに優れたマイクという独自の基礎技術とバーをピアノ内に収納可能というセット。誰もが考えつかなったピアノのマイキング方法を提供し、そのクオリティが多くの方から賞賛されました。そして科学的にパーフェクトなマイクを使用環境、ユーザーの環境に合わせて、調整していきます。

NAMM2014 QTC40

アコースティックデザインも含め「科学的にパーフェクト」だというQTC40

【Earthworksが見据えるテクノロジー】

Q: 今、注目している技術、研究中の新技術はありますか?

NAMM2014 Earthworks 1022 / 1024

Earthworks 1022 / 1024

NAMM2014 Earthworks 521 ZDT Preamp

Earthworks 521 ZDT Preamp

1Hzから200kHz±0.5dB というフラットな特性、0.0001%の歪率。プリアンプであることを意識させずゲインアップする。500シリーズ対応のZDT521は間もなく日本でも発売される。

DB: 先ほども申し上げた通り、私はアナログ・エレクトロニクスだけでなく、コンピューターについても学んできました。デジタル・オーディオについても高い関心を持っています。ただ、既存のADコンバーターチップに満足している訳ではないので、単にデジタル出力のマイクではなく、もっと先進的なものに着眼しています。一旦、デジタル・データになれば、そこからの自由度は無限大です。 やはり現在の常識を覆すデジタル・オーディオ技術、コンバーター、ネットワークなどが一体化した、利便性とサウンド・クオリティが両立した新技術に取り組んでいます。

Q: 近々に発表予定の新製品はありますか?

DB: 近々ではZDT521 500シリーズ対応プリアンプ・モジュールが出荷開始になります。こちらはDavid が開発したZDT( ゼロ・ディストーション・テクノロジー(プリアンプ))をベースにしたモデルでEarthworks マイクと同じく、原音に忠実なサウンドが特徴です。既に米国内ディーラーからも多数のオーダーをいただいていおり、今後に期待しています。他にヴォーカル用マイク、放送局用のマイクなどの開発に入っています。来年のNAMMでは発表できるのではないでしょうか。ご期待ください。

インタビュー中にもあったが技術開発を最優先するという姿勢が、発明とも言える同社の製品を生み出す原動力なのではないだろうか。レスポンスがフラット、インパルスレスポンスが高速、タイムドメインが正確、ボディ・パーツがアコースティックを乱さないといった「科学的にパーフェクト」「物理的に正しい」製品。Earthworksがハイデフィニションなマイクと評されて久しいが、そのクオリティを保ち続ける理由が垣間見えた。

NAMM2014 Earthworksのテクノロジーを支えるスタッフが暖かく迎えてくれた。職人という言葉がぴたりとはまる技術者集団だ。 最も左がPresident の Heidi B Robichaud氏

Earthworksのテクノロジーを支えるスタッフが暖かく迎えてくれた。職人という言葉がぴたりとはまる技術者集団だ。
最も左がPresident の Heidi B Robichaud氏

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