先週はシンプルな基本パッチを説明しました。次に足すとしたらやっぱりLFOですね。
LFOは「Low Frequency Oscillator」の略で、実は大きくはこのモジュールもオシレーター、つまりは発信器の一種でして、実際にこのモジュールをアンプに繋げば音が出たりはするんだけど、一般的なLFOモジュールは1V/OCTのインがないので、ピッチをコントロールする事はできません。
LFOの接続先と代表的な3つの用途は以下の通り。
1)オシレーターにパッチして、ピッチを揺らしてビブラートとして使う。
2)フィルターにパッチして、周期的にフィルターのカットオフを変化させる。
3)VCAにパッチして、トレモロ(用語的にビブラートと混同しがちですが、こちらはピッチはゆれません。ギターアンプに付いてるトレモロと同じです)
LFOモジュールはここ10年で劇的にバリエーションが増えたものの1つ。各社から本当に様々なバリエーションが発売されています。
僕が最初にモジューラーシンセを使っていた15年前はそれほどバリエーションがなかったと思いますね。一番劇的に変わったのはLFOのスピード。実はNative Instrumentsが2007年にMassiveというソフトシンセをリリースして以降、他社もそれに追従して(?)最近のLFOのフリーケンシーが劇的に早くなっているんです。最近のLFOモジュールもまた然りですね。それによってモジュラーシンセでもEDM等で耳にする新しいデジタル的なサウンド作り出す事ができるようになったんです。
ちょっと話が脱線しますけど、Massiveも実は各種コントロールを色んな所にパッチできるので、ある意味発想はモジュラーシンセっぽい部分があるんです。そういう目でもう一度Massiveを見直してみて下さい。より理解が深まるかもしれませんよ。
さてモジュールの話に戻りますが、今では外部クロックとLFOの周期をシンクできるモジュールも珍しくなくなりました。極端な例だと、僕が持っているMutable Instrumentsの「Tides」(写真)というモジュールは珍しくピッチをコントロールできるタイプのLFOで(人によってはエンベロープジェネレーターと紹介されてもいます)、波形のカーブに微妙にクセを付ける事ができます。周波数のレンジも10Khz(普通は5khzくらいが多いですね)までとメチャクチャ速いです。できる事が多すぎて僕も未だにちゃんと把握できていません。
Mutable Instruments/Tides公式ページへ>>
Roland/
SYSTEM-500 540 Modular 2ENV-LFO
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でも最初に買う1つめのLFOはもっとシンプルな、Doepferの A-145やA-146、もしくは僕もまだ実機を触れていないのすが、今最も熱い!ローランドのモジュール SYSTEM-500 540 Modular 2ENV-LFOもなかなか良さそうです!なんとADSRも一緒にセットされているし、お薦めのポイントはこのモジュールはDelayを持っているということ。これがあれば、ビブラートのかかり始めを少しおくらせて音楽的な演出をする事ができますからね。それと前述したクロックとの同期もできるので、最初に買うLFOとしては100点満点だと思います。
最後に先週のパッチに、LFOを追加してビブラートをかけるパッチを紹介します。
ビブラートをかけるためにLFOのアウトをオシレーターのCVへパッチ。
先週のパッチにビブラートのためのLFOを追加した全てのパッチワーク。
今週のワンポイント「LFOモジュールの選び方」
LFO選びのポイントはモジュラーシンセで何をしたいかによると思うのですが、もしライブパフォーマンスが目的であればやはり最初はシンプルなLFOをシステムに組み入れた方がいいと思います。上記のTidesだと一目見ただけでは設定がどうなってるのか把握しにくいんです。
リアルタイムでパッチを変えながらパフォーマンスする際は視認できるというのは大事な要素ですからね。もしくは自宅やスタジオでじっくり音作りしたいのなら、TidesのようなLFOを”オシレーター”として捉えて、時間をかけて取り組むのもいいかも知れません。
この2年でオシレーターとLFOの境目は本当に曖昧になってきました。「複雑系LFO」に関しては各社ウエブサイトやYoutubeなのでじっくり検討してから選びましょう。
さて残る基本モジュールはVCA(並びにADSR、エンヴェロープ)ですね。ここからがいよいよモジュラーシンセっぽくなってきます。急に面倒な事態に突入するのでがんばってついて来て下さい!
オーディオ出力する最終段階でVCAを使います。これは鍵盤付きシンセ、またはモジュラーシンセを問わず全てのシンセに共通しています。鍵盤付きシンセしか触った事がない読者はVCAのモジュールとADSRのモジュールが別々で販売されている事が少々分かりにくいかもしれませんね。
鍵盤付きシンセでも内部の配線はモジュラーシンセと同じ仕組みになっているのですが、ADSRを独立してパッチする事はできないので、VCAとADSRはセットになっているように見えます。しかし、モジュラーシンセではADSRをどこへでもパッチできるんです。
鍵盤付きシンセではアンプリファイアとフィルターの変化量をADSRで設定しますよね?モジュールとして使う場合は、ADSRの変化量をピッチにアサインしたりして、その気になれば色んなパラメーターを変化させるために使えるんです。
最近は1つのモジュールにADSRが二つ搭載されているものも増えてきましたよね?フィルターもいずれ増えるでしょうし、ADSRモジュールは少なくとも2つ以上は手元にあった方がいいと思います。
特にフィルターをコントロールする際のディケイの絞り込み方のフィーリングは各社微妙に違いが出ます。ノブタイプとスライダータイプでもフィーリングに違いがあります。あれこれ試してみて下さい。
さて冒頭で書いた「面倒な事態」に突入します。ここで説明のためにちょうど良いiPadのappを見つけたので紹介します。
Pulse Code, Inc. のその名もずばり「Modular Synthesizer」。
皆さんもiPadに入れておけば外出先などでパッチの練習になると思いますよ。それとこのアプリのプリセットは良く出来ているので、色んな音色がどういう風にパッチされているのかを確認できる良い教材でもあります。
以下は最もシンプルな1VCOのシンセで音を出すパッチの手順を説明します。パッチの「読み方」ですが、基本は以下の4つの経路を辿ればどんなモジュールでも理解できます。
慣れて来ると、同時にパパっとパッチできるようになりますが、それまでは信号のフローを役割順に追って行くようにするといいと思います。
1)まずは、音程。音を鳴らす為にCV/GATEアウトが付いた鍵盤を叩いたとします。CVは先週までに説明したようにピッチの情報ですから、VCOのIN/OCTへパッチします。ピッチに関してのパッチはこれだけです!
2)次にGATE。鍵盤からのGATE情報は二つのEG(Envelope Generatorの略)へパッチします。実際はスタックケーブルを使ってパラっても良いですよ。
3)それから各モジュールをコントロールするためのCV。この場合は二つのEG(ADSR)でフィルターとVCAをコントロールしています。
4)そしてオーディオ信号が、オシレーター→フィルター、フィルター→VCA、VCA→アウトプット、へと流れています。このパッチを最初にしてしまうと音が出っぱなしになるから注意してね!
5)完成!こんなシンプルなパッチでもケーブルが8本必要です。そんなに面倒な事態じゃなかった?
どんなに複雑なモジュールでも音を出す基本はこれです。後はLFOでビブラートを付けるとか、同じくLFOで周期的にフィルターを変0化させるとか、オシレーターにノイズを使うとか、この基本のパッチに足して行くという流れになりますね。
モジュラーシンセを自由に使えるうようになれば鍵盤付きのシンセのエディットも格段に簡単に感じるようになりますよ!
今週のワンポイント
上で紹介したアプリではCVとGATEのアウトが最初から4つ用意されていますが、実際はモジュラー用語で「Multiple」と呼ばれる信号をパラ出ししてくれるモジュールを使うのが一般的です。
二股くらいならスタックケーブルでなんとかなりますが、3つ以上に分岐するのはこのマルチプルを使うのが便利です。
ちなみに僕のモジュールにはこれが入っています。一番下のボタンで1→3、または1→6の切り替えができるので便利です。
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瀬川 英史 プロフィール
映画「ビリギャル」「明烏」、ドラマ「心がポキっとね」、アニメ「うしおととら」、ドキュメンタリーNHKスペシャル「憎しみはこうして激化した〜戦争とプロパガンダ」「盗まれた最高機密 ~原爆・スパイ戦の真実~」の等の音楽を担当。2012年、フランスの国立映画祭
イエール·レ·パルミエにてフランス映画「Le dernier jour de l’hiver」で最高音楽賞受賞。▼ Facebookはこちら>>