音をクリエイトし、活躍している人をご紹介するコーナー「People of Sound」。このコーナーでは、制作者の人柄が、サウンドにどうつながっていくのかに注目。機材中心のレポートから少し離れ、楽しんでお読み下さい。第7回目は、サウンドプロデューサー、トラックメイキング、作曲、作詞まで活躍されているシライシ紗トリさんです。

ORANGE RANGEのプロデュースやSMAPの「freebird」の楽曲制作等のご活躍に加え、ご自身のソロアルバム"Happydom"を今年7月にリリースされたばかり。ご自身のサブトロピック・スタジオにお邪魔してお話をお伺いしました。

都内にあるシライシ氏のスタジオ。ここでは主にアレンジやミックス作業が行われているという。多数のギター、ベースに混ざり置かれたウクレレを始め、ハワイアンテイストをもった小物やポスターが多数飾られている。「仕事場というより遊び場という感じにしたかったので。」とのこと。スタジオに入った時に気付いた、室内のなにやら懐かしい雰囲気。「壁の素材は学校の音楽室をイメージして選びました。」あっ、言われてみれば、まさに音楽室。壁は、懐かしの木製穴あきパネル!氏の遊び心で埋め尽くされている部屋でインタビューが始まりました。

2007年10月23日取材

きっかけは姉から誘われたバンド 〜 音楽への入り口 〜

Rock oN:音楽へ目覚めたきっかけをお伺いできますか?

シライシ紗トリ氏(以下 シライシ):6つ上の姉がいてバンドをやっていたんです。姉のバンドにベーシストがいなっかたという理由で誘われて始めたのが小学6年生だったかな。ハード・ロック、ヘヴィ・メタル、それとパンク全盛期でしたから、キッスやセックスピストルズなんかを聞いてました。中学卒業後上京し、知り合いをつてにジャズ・ピアニストの橋本一子さんに師事し、いわゆるボーヤ的な仕事に加えて、なんでもやりましたね。それからは、ライブハウスを始め、色んな職種のアルバイトと音楽活動に明け暮れた日々を過ごしました。

Rock oN:橋本一子さんに師事していたということで、業界の近くに早くからいらっしゃったので、チャンスはたくさんあったんですよね?

シライシ:確かに、早くから現場に接していたので、スタジオ作業についての知識を、当時活躍されていたそうそうたる方々の仕事で目の当たりにすることができました。でも、自分では純然と、自分のデモテープを作ったり、オーディションに応募したり、ライブをやったりと音楽活動に明け暮れていて、オーディションをきっかけに仕事をもらい、久宝留理子さんに曲を提供したんです。それと並行してPradiseLostというユニットでデビューしました。その後、アミューズ主催のミュージカル “D-LIVE-Rock to the future”の仕事を頂いたのがキャリアのスタートで、大きなスタジオワークを見て来たことで、デジタル/デスクトップの環境になった今でも、スタジオワークのあるべき発想に戻ることができ、それは今の仕事の上でも大きなプラスになっています。

Rock oN:いきなりミュージカルですか?

シライシ:初めての大きな仕事で緊張しましたよねえ。。試行錯誤して苦労しましたが、西城秀樹さん、ダイヤモンド・ユカイさん、プリンセス・プリンセスの中山加奈子さんを始めとする出演者の方々が歌うロックミュージカルで、劇伴というより楽曲単位の制作だったので、今、思い返すと僕にとってはとてもいい勉強になったと思います。

3つのHDシステムを使い分けるサブトロピック・スタジオ

Rock oN:初めてのレコーディング機材は何ですか?

シライシ:シーケンサーのYAMAHA QXです。マニュアルを読んで覚えるというより、現場で鍛えられながら覚えて行ったという感じですね。

Rock oN:初めてのコンピューターは?

シライシ:Mac Plusです。シーケンサーはStudio Vision。オーディオ系はAudiomedia LCを使い、歌などのエディット用として使っていました。ドラムはFOSTEXの8トラックのハードディスクレコーダーD-108に入れて、シンセ類はMIDIで鳴らし、それらをデジタルミキサーのYAMAHA ProMix01や、マッキーのアナログの宅に立ち上げていました。スタジオに持ち込む特は、ALESIS ADATを借りて来てトラック毎に流し込んでいました。都合でADATが借りれない時は、Mac Plusを中心としたシステム丸ごと持ち込む時もありましたよ。スタジオに着くなり「セッティングに2時間ほどかかりますー。」とか言ってましたねえ(笑)。

Rock oN:シライシさんの年齢からしては、少し前の世代の機材からご存知という感じですが、それは早くから現場で使い出されたということですね。 コンピューター導入時、スタジオの現場作業での苦労はありました?

シライシ:やっぱり同期の問題ですね。OpcodeのStudio4やStudio5が全盛期でした。混沌としていましたが、色んなハードウェアが出ていて楽しかった時代でもありますね。その後、コンピューターベースのオーディオ・マルチトラックに移行しますが、digi001を3台繋げて使っていました。

Rock oN:えっ、それは珍しい使い方ですね。どういう使い方を?

シライシ:チャンネル数を増やすためですが、1台はMac Plusに接続してMIDI専用として、1台はオーディオ用として当時のLCシリーズに接続して、、という感じです。その後、TDMに移行してDigidesign 24Mixも使いましたが、フロントエンドはLogicを使っていました。Cubaseも一時期使っていましたが、今でもプロデュースするバンドがLogicやCubaseで作ってくるケースもありますので、その時は使います。現在はHDシステムを3セット使っています。3年前くらいからMIDIについてもPro Tools Softwareを使っています。

Rock oN:HD 3セット!! どのような使い分けをされているんですか?

シライシ:1セットはソフトシンセ音源用としてカスタムWindowsマシン + Pro Tools | HD2 + 192 I/O + 64bit Expansion Chassis)で動かしています。

Rock oN:国内流通する前の製品を海外で購入されてお使いになられたり、ソフトシンセマニアと呼べるほど、かなりの数のソフトシンセを所有されているとお聞きしました。よく使う製品は何ですか?

シライシ:自分は作家という認識があるので、ソフトシンセに関しては、なんでも試しに使ってみるというスタンスです。ドラムはBFD、TOONTRACK dfh SUPERIOR、addictive drumをジャンルによって使い分けて、オルガンはNative Instruments B3、エレピはdigidesign velvetをよく使います。他には、Vir2 Acoustic Legend、SPECTRASONICS STYLUS、Torilogy、ULTIMATE SOUND BANK PLUGSOUND PRO、Big Fish Audio First Call Horn、AMG ONE、Kick-Ass Brass!等たくさん使っています。

シライシ:Digidesign Xpand!は便利ですね。プロデュースで関わるバンドのメンバーにMIDIデータだけ渡すだけで音のイメージの互換性が取れますから。A.R.Iグループ制作のソフトウェアは、サウンドもそうですが、インターフェースが優れていて、いい製品だと思います。StructureはAKAIフォーマットが読み込むことができればいいんですが。なのでサンプラーソフトは、MOTU MachFiveを使う事が多いです。192 I/Oのアナログアウトを、2台のRUPERT NEVE DESIGNS Portico 5032H 、4台のAPI 5012、それから2ch入力できるManley Dual Mono Mic Preに接続しパラでパート毎に音作りをして、アレンジ用に使っているHDシステム(Apple G5 + Pro Tools HD3 Accel + 192 I/O + 96 I/O + Sync I/O - Expansion|HD Chassis)に流し込みます。

Rock oN:Pro Toolsからの出力をアナログミキサーに立ち上げるイメージですね?

シライシ:そうです。取り込む前にここで音作りをしますが、前に出てくる太い音にして取り込むことも出来ます。Porticoのモダンなサウンド・キャラクターは素晴らしいですね。どんな音源でもPorticoを通すと、一定の水準のサウンドクオリティまで持ち上げてくれます。またSilkボタンが素晴らしい。倍音が加えられて、高域に伸びが出ます。Manley Dual Mono Mic Preはタムによく使います。

人が集まって音楽を作ることが好き

Rock oN:ソフトシンセの数に対して、エフェクトのプラグインは少ないですね。

シライシ:僕の現場の信条は、人とコラボレーションして音楽を作るということを大事にしてるので、音を作り込むところまでは自分で責任を持ちますが、なるだけローバジェットのお仕事でもミックスはエンジニアに任せるようにしています。「おお、そうくるかー」みたいな発見もありますしね。なので、アレンジの段階でエフェクト・プラグインはあまり使用しません。Waves Platinumがあれば事足りちゃいますね。

Rock oN:ご自身のソロアルバム"Happydom" は、制作面でも色んな話題が満載ですね。

シライシ:ニュー・ヨーク、ロサンゼルス、ハワイ、東京のスタジオでレコーディングを行い、オマー・ハキム、レイ・パーカー・Jr、ネーザン・イースト、ヴィニー・カリウタ、バシリ・ジョンソン、ウィル・リー等、僕が敬愛するミュージシャンに参加してもらいました。東京に戻ってからは、ネットワークを使いニュー・ヨークのAvatar StudioチーフエンジニアRoy Hendricksonとやり取りしながら作業を進めましたが、Avatar Studioと東京のサブトロピック・スタジオの再生環境を揃えるためにも、Avatar Studioで使っているモニタースピーカーLipinski L-707をサブトロピック・スタジオに導入しました。ネットワークを使った海外との作業はますます一般的になってくると思いますが、その為には一度、向うの人と顔を合わせて置く事が、なによりもその後の作業の進行や音楽の方向性のためにも重要だと思います。

"Happydom"には、スラック・ギターの名手 ブライアン・ケスラーや、ハワイの人気女性デュオ ケアヒバイに参加してもらっていますが、その流れでフラの先生でもある兄弟”キナ&カラニ”のアルバムプロデュースも行いました。

Rock oN:サブトロピック・スタジオの今後の展望や、音楽活動のこれからの夢はありますか?

シライシ:僕自身は場所や機材に執着はしてないんです。この場所やこの機材じゃなきゃいけないということは全くないです。でも、今後は人が集まれるという意味合いのもとに、大きなコンソールがあり、ドラムなどが録れるスペースがあるスタジオを持ちたいと思っています。人が集まって音楽を作ることが好きなので、それを可能にする場所ということで。

今後の活動ですが、後輩の指導、育成という立場になってきたので、行っていきたいです。また、子供向けのしっかりとしたエンターテイメント作品を手がけてみたいです。海外からの受け売りのような作品でなく、日本人ならではのものとしてしっかりたものを作ってみたいです。以前はそういう方面への興味はありませんでしたが、自分が歳を重ねてきたこともあってか、そう思うようになって来たんでしょうかね(笑)。

勿論、自分の好きなことをやっていくという姿勢には、これからも変わりありません。

このコーナーでは、音を作り出す活動をされている方の出演を募集しています。ミュージシャン、サウンドエンジニア、作曲家、アレンジャー、はたまた音効さんや声優さんなどなど。音楽機材に興味を持っているかたなら、なおOKです。お気軽に、下アドレスまでご連絡下さい。また、ご感想、ご希望等もお待ちしております。連絡先アドレス : store-support@miroc.co.jp

ROCK ON PRO、Rock oN Companyがお手伝いさせていただいております!

Pro Tools HD、VENUEシステムをはじめ、ROCK ON PROでは業務用スタジオから、個人の制作環境を整えたい方まで様々なレンジに幅広く対応致します。専任スタッフが、豊富な納品実績のノウハウをもとに機材選定から設計/施行、アフターケアにいたるまで全て承ります。また、レコーディング機材をはじめ、楽器のご購入や中古商品、機材買い取りのご相談はRock oN Company渋谷店へお気軽にお問い合わせ下さい!