音をクリエイトし、活躍している人をご紹介するコーナー「People of Sound」。このコーナーでは、制作者の人柄が、サウンドにどうつながっていくのかに注目。機材中心のレポートから少し離れ、楽しんでお読み下さい。

第19回目は飛澤正人さん。Dragon Ashの作品では、生のバンドサウンドと打ち込みが有機的に織りなす独創的サウンドを生み出し、多くのミュージシャンから「アーティスティックな感性を持ったエンジニア」として信頼を得ている飛澤さん。先日、弊社開催が開催した「トップエンジニア飛澤正人氏が伝授するマイキング・テクニックの秘密!」セミナーでは、参加者の方から「マイキングの秘訣を、解りやすく丁寧に解説してもらった。」、「高度なテクニックには、目から鱗が落ちた。」といった反響をたくさんの方から頂き大変好評を得ました。ご自身のスタジオにお邪魔してお話をお伺いしました

2009年9月11日取材

〜小学3年生で作ったゲルマニウム・ラジオでの、音楽との出会い〜

Rock oN:最初に音楽に触れた時のお話をお聞かせ頂けますか?

飛澤正人氏(以下 飛澤):音楽を好きで聞き始めたのが、小学校3年生ぐらいで、ラジオから流れてくるアメリカの音楽にすごく興味を惹かれまして、「アメリカントップテン」をすごく楽しみに聞いていました。またその頃に日本の歌謡曲中心の「ポップスベストテン」という番組もやっていて、毎週欠かさず聞いていました。ビートルズが出てきて中判ぐらいの頃でしたので、1969、70年頃だったと思います。

Rock oN:世間一般的に、早い時期に音楽製品に触れられているように思われますが、ラジオを聞くようになったきっかけは何ですか?

プラモデルが大好きな子供だったので、組み立て式のゲルマニウムラジオを手に入れて、自分でチューニングしてどこの放送局だかもわからない状態で聞いていました。その後、ちゃんとしたラジオを購入してすぐにわかりましたけど。

Rock oN:私の小学生の頃と比べますと、聞こえてくる音楽は洋楽も邦楽も同じに感じてましたが、そういった区別というか、意識はありましたか?

飛澤:分け隔ては特にないですけど、いまだにそうですけど、とにかく英語がかっこ良かったのを覚えています。邦楽は演歌が2、3割を占めてましたけど、洋楽は鳴っている音自体の聞こえ方が断然違っていて、好きでしたね。最初に買ったレコードも洋楽でした。

最初に購入したレコードはクリスティーのレコードで、お年玉とかコツコツためて買いました。仲の良い友達と、「おれ(トップテン)の1位買うから、おまえ、2位買え!」みたいな感じで(笑)。レコードプレーヤーも持っていなかったので、友達の家に行って、とっかえひっかえ聞いてましたね。その他にはビートルズの「レットイットビー」とか。でも、一番記憶に残っている頃といえば、中学1年ぐらいの頃で、その頃はビートルズも解散した後でしたが、KISSやスージークアトロ、ウイングス、カーペンターズ、Queenなどロックが開花した時代ですかね。小学6年の頃にカセットレコーダーを買ってからは、エアチェック録音して繰り返し聞いていました。

Rock oN:中学時代になると徐々にそういったお友達も増えてきたんじゃないですか?

飛澤:いや、ピンクレディーなどのアイドル全盛時代だったのもあり、結構、独自路線でしたね。ちょうどその頃からギターを始めだしたんですが、何か自分で表現したい、演奏したいと思うようになり、当時トレンドだったフォークソングを聞くようになりました。中でもよく聞いたのが、かぐや姫、井上陽水、吉田拓郎辺りですかね。

Rock oN:その時代ですとギターも高いですよね。どんなギターを買われたんですか?

飛澤:モーリスの¥15,000ぐらいのフォークギターですね。これもお年玉でコツコツと(笑)。それからは独自でやってましたが、本格的にやり始めるのが、高校の軽音楽部に入ってからですかね。バンドも組んでいたので、自分で作曲して弾き語りをするのと別々で活動してました。バンドではニューミュージックが中心で、風、イーグルスなどをコピーしてました。ちょうどその頃にエレキギターも購入しましたね。

Rock oN:ラジオの次には、録音機材というか、何か購入されました?

飛澤:高校2年の時にバイトでテクニクスのコンポを買いました。それまではラジカセにオプションでマイクが付いていて、それを使って、ギターを録音していたりしてました。そのコンポでカセットデッキがソニー製だったんですが、LチャンネルとRチャンネルが別々に録音可能という変わった代物で、Lにサイド、Rにリードを録音してといったMTR的なこともしていました。

Rock oN:学生時代は割とミュージシャン指向の活動をなさっていたように思われますが、エンジニア的な活動はいつ頃からですか?

飛澤:学園祭のPAですかね。近くにレンタルスタジオがあったので、そこから借りてきて、誰も繋ぎ方など教えてくれないから、全て勘をたよりにやってました。それだけにケーブルが短すぎて、ステージのすぐ真下がPA卓という場合もありましたが(笑)。それからPAをやっているうちに、面白いと思えるようになってきて、エンジニアになるためにはどうしたらよいかということは漠然と考えてましたね。当時吉野金次さんが、"ミキサーになるためには"みたいな本を出してまして、読んだのを覚えています。

程なくして卒業となるんですが、当時は今みたいに、エンジニアになる道は全くといっていいほど、開けていなかった。なのでどの学校に行っても大して変わらないと思い、取り敢えず音響の専門学校に進学しました。しかし、当時のこの学校の卒業先の殆どはテレビ局関連で、内容もその分野がメインでした。実際、テレビ局に何度かバイトにも行きましたよ。歌番組に黒子で出演したり(笑)。学校には一応、ミキシング機材はあったんですが、講義のみで実技もなく、殆ど役にたたなかったですね。

Rock oN:ちなみに在学中の音楽活動は継続されていたんですか?

飛澤:やってましたね。高校時代からのバンドはその後も継続して活動していました。

〜給料なしが条件で、キャリアスタート〜

Rock oN:ではその後就職という流れになる訳ですが、現職に就くまでの経緯は?

飛澤:卒業しても就職先がない。募集していない。誰も紹介してくれない。どうしようかと考えたときに、当時30社ほどあったスタジオに直接訪問すべく、30社分の履歴書を書いて、一軒一軒体当たりしました。履歴書も名刺代わりなので、色付けたり、健康状態は「絶好調!」(笑)とか書いてアピールしましたね。結果は殆どが門前払いでしたけど。ただ、何社か話だけは聞いてくれてましたね。で、最後に吉野金次さんがいるTAKE ONEのスタジオに行こうと思い、ロビーに座っている殿方にいきなり「ミキサーになりたいんで、使ってください!」と履歴書を渡したら、「おれはここの人間じゃないけど、紹介してやるよ」と言われて紹介してくれたんです。TAKE ONEも断られ、帰ろうとしたときに、その間違えた方が、「おまえ、面白いやつだな」と言って一件紹介してくれて。最初断られたんですが、「世間の風は冷たいっす!」と言ってもう一回会ってもらったら、給料なしで何でも雑用するという条件でスタジオに置いてもらえました。そこがキャリアスタートでしたね。

就職難の今、「何が何でも入りたい!」と思いながら就職活動をしている学生の方も多いでしょうが、募集もしてない会社のドアを叩いてまわる。ここまでやってしまう人は今時少ないのでは?意外にも(失礼!)かなり行動派の飛澤さんですが、熱い人間を証明する飛澤さんのエピソードが続きます。

飛澤:それからは常に目立ってやるという精神で、掃除からコーヒー入れ、弁当の買い出しなど何でも全力疾走で仕事をこなしました。給与なしの条件で入ったスタジオでしたが、実は高校時代に簿記の資格を取得していて、それが経理の方の目に止まり、スタジオの伝票の取り仕切りをやったところ、それが認められ、給与が出る条件に変えてもらいました。それからミュージックスクールを企画したり等々。使いっ走りに命を掛けた生活を1年と少し続けた後、アシスタントを目指し次のステップに行くんですが、キティのレコーディングスタジオに入社して、アシスタントのスタートとなりました。そこに2年勤めるんですが、そこのスタジオの機材は卓がトライデント、レコーダーがSTUDERのマルチを使ってましたが、2年目ぐらいにSONY PCM-3324が導入されてきて、アナログ機器とシンクさせて使ってました。CDが発売され、アナログからハイファイに変革する、そんな時期でしたね。

その後、知り合いのアシスタントの方から、新しいスタジオが出来るから来ないか、というお誘いを受けて、そちらに移りました。そこで勉強のつもりで様々なアーティストのプロジェクトに関わり、3年後、ある程度自身がついた後に、「DONE」というミキサーズグループに参加し、フリーに転向しました。

Rock oN:飛澤さんのお話を伺っていると、エンジニアという技術者というよりはアーティスティックな部分を感じるのですが?

飛澤:僕は機材の技術的な構造などには実は全く興味がなく、壊れたら自分で直さず、修理に出すといった感覚なんです。ハンダごてだって年に一回ぐらいしか握らない。それよりかは音楽を作っていた方が楽しいし、ミキシングにしても、音をまとめるというよりは、演奏している感覚でやっていますね。ちょっと今のミキシング手法とは違うかもしれないけど、そういう意味ではアーティスティックかもしれない。

Rock oN:「DONE」ではどのような活動をされていたんですか?

飛澤:主に先輩の余った仕事などを請け負っていました。当時はアニメや映画などの劇伴の仕事などもあり、通常の音楽と違って大胆なことができるので、ミキシングの手法や工夫など、色々編み出したりしましたね。アコースティックの録音もその頃鍛えられましたね。なかには最大50人以上のミュージシャンを迎えて、3時間程で50ロール録ったりもしました。

現在とは違って、以前は険しい道のりであったエンジニアへの道。今では確かに恵まれた環境下であるが故に、その仕事に命を掛けて突き進む、バイタリティ溢れる若者が少ないかも?と、感じました。

〜アナログ機器からコンピュミックスへ。ProToolsとの出会い〜

Rock oN:現在は現場にはProToolsが殆ど導入されていますが、キャリアスタートからの当時の打ち込み事情ってどんな感じでした?

飛澤:ミキシングに関しては、SSLやNEVEなどコンピュミックスが可能だったので、そういったものには触れていましたが、最初のスタジオにいた時代に、RolandのMC-4やMC-8などが置いてあって、雑用の合間に自分で操作して遊んでたりはしてましたね。当時テクノ全盛期でしたから。

Rock oN:現在はProToolsを導入されておりますが、どのような興味の元で導入されたのですか?

飛澤:当時、MacとDigital Performerが出始めた頃に、鍵盤入力などが苦手なギタリストは、NECのPC-98でカモンミュージックを使って打ち込みをしていました。僕も使っていたんですが、これじゃ満足いかず、そうしたらちょうどProToolsが出てきたんですね。それから5年ぐらいしてからProTools 24に進化して、これを持っていたら、自分でトラックダウン出来るんじゃないかと思ったんです。トラックダウンなどの作業など、高いスタジオ代を支払って、それでもってエンジニアが、体調なども考慮されず何時間も拘束される業務は、アーティスティックじゃないと思ったんですね。だけど、これさえあればスタジオで限られた時間制約に縛られることもなく、編集の仕事に打ち込めると思い、多額の借金のもと、導入しました。でも1年ちょっとですぐ元は取れましたね。

周りではProToolsなど知らない時代でしたから、コンピューターを含め一式をスタジオに運んで、録りを行い、それを自宅に持ち帰りトラックダウンをするといった流れで作業していました。ただバックアップが大変で、当時はDVDなど無かったんで、CD-Rを箱単位で購入して、2時間ぐらい掛けてバックアップしてました(笑)。

Rock oN:早い時期でのProTools導入となる訳ですが、導入に際して何か不安に感じることはありましたか?

飛澤:いや、全くありませんでした。無謀と言われつつも、絶対うまく行くという自信もありましたが、ProToolsがこの業界でここまで浸透するとは思っていませんでした。ただVer5ぐらいまではデータの保全が不安定ではあったので、徹底してバックアップに努めました。おかげでデータを消失する事故は現在に至まで一度も起こしたことはありません。

〜最大限、いい絵を描いてあげるミックス。飛澤流ミックス論〜

Rock oN:現在こちらのスタジオでは、どの程度までの作業を行っていますか?

飛澤:トラックダウンがメインですが、ドラム以外のボーカルやギターダビング、鍵盤などの録音も行っています。僕の場合、エンジニア作業以外にアレンジも行うので、アレンジの段階でどの帯域が足りないかが分かった段階で、EQなどの周波数をいじるのではなく、ボイシングにより音域を足していくといった、最終的なミックスを見据えたアレンジングが可能なところが強みですね。一番面白いところです。

そういった訳で、エンジニアだから作業はここまで、というように線引きをしない僕の作業経緯を理解しているアーティストさんからは、「この楽曲を好きにアレンジして欲しい」といった依頼もありますね。そういう場合、「飛澤ならなんかやらかしてくれるだろう」というエンジニア以外のプラスαを求められている部分が大きいので、僕にとっては嬉しいですね。

ミックス作業においても、自分で何回も聞きたくなるように追い込めないうちは、絶対にやめないですね。他のミックスとの比較も特にしないので、自分の中の基準値を元に、あくまで自然体で作業しています。僕にとってのいいミックスって、時間の空間の中で最大限の絵を描けるミックス、つまり音楽って限られた時間の中で空間や感情表現を組み立てて物語を作る"時間芸術"であるのを前提に、自分なりに解釈した物語を、その時間というキャンバス内で最大限いい絵を描いてあげることが、ミックスで一番大事なことだと思って取り組んでいます。

また、ケンジ(降谷建志/Dragon Ash)なんかも他のインタビューで「飛澤さんは、超攻撃的なミックスをする」って言うぐらい、僕のミックスは攻撃的らしいんですが、僕の中では、自分はここは絶対あげたいし、つかみたいっていう部分があって、それがレベリングに現れるのかな、って思ってます。そのせいか、若いアーティストに怖い人だって思われてるみたいです(笑)。「いや~よかった、おれら殴られるんじゃないかと思って…。話ちゃんと出来てよかったっす」なんて言ってたアーティストもいました(笑)。

Rock oN:今の若い世代のミュージシャンは、音の捉え方 や音楽の組み立て方など、違いを感じたりしますか?

飛澤:今の時代、サンプル音源などが溢れていて、ちょっとお金を出せば買えたりするんですが、それで組まれたデモとかを聞いてみると、一つ一つの音がチープなんですね。本当の良い音を知らないっていうか、空間があって立ち上がりが速く輪郭がある音を聞いたことが無いんです。それじゃいい音ってなんですか?って聞かれることが多いので、実際、ここで録音して聞かせてあげる。そうすると、「この音って、まるで目の前で弾いているような音ですね 、いや~、感動しました!」って理解してくれる。そうすることによって、彼等が2枚目、3枚目を作り上げる時に、徐々にステップアップの意味で「今度は自分で考えてやってみな」って言ったりもします。

〜自分を信じてイメージし、目標を立てることが大事〜

Rock oN:これからエンジニアを目指そうとしている方や、現職に就かれている方に何かメッセージなどありますか?

飛澤:特には無いのですが、ただ一つ言えることは、自らイメージしていることは何でも出来ると思っています。僕自身、下積みの時期に「ホントにエンジニアになれるんだろうか」という不安を抱えた時期がありましたが、自分を信じて失敗を恐れず、とにかく行動してみる。そうすると何か必ず変わってくるし、その努力している姿を誰かが必ずみているものと思ってやってきました。だから、どんな仕事でも絶対手を抜かなかった。自分がやるとこうなる、という部分を必ず作って、仕事に取り組んできましたね。短いスパンと長いスパンで目標を立てて、それに向かって突き進むことが大事だと思います。

Rock oN:今後の目標をお聞かせください。

飛澤:短いスパンとしては、3年間ぐらいの間で、制作チームを立ち上げたいと思っています。このスタジオを立ち上げてから1年が経つんですが、一人でやるよりは数人で制作を請け負えたらいいな、と思って。あとは近いうちに、エレクトロニカ系でアーティストとしてアルバムを出したいって思っています。クラブでもライブなどしたいですね。長いスパンとしては、「10年後には自分はミキサーしていない!」ってことですね。

Rock oN:最後に飛澤さんにとって、音楽とはなんですか?

飛澤:そうですね、自分は音楽をやるために生まれてきたんじゃないかなって思うことがよくあるんですよ。昔は辞めようとか、迷いや挫折もあったりしましたけど、その都度、救われたり助けていただいたりした方が、有り難いことにたくさんいたんですね。それで今の自分がある訳で、やはり運命なのかなと感じてしまいますね。そして今まで自分が支えてきてもらった分を、今後は後進に還元していきたいと思ってます。

「(スタジオに所属していた)当時は技術肌の人とは話が合いにくかったけど、アーティストの人達とは意気投合することが多かったですね。」という飛澤さん。飛澤さんのクリエータとしての現在のカラーを象徴する一言だと思いますが、アシスタント時代から、現場で全力で取り組んで来たエンジニアとしての優れたスキルを土台にしているからこそ、飛澤さんのアーティスティックな資質がさらに輝きを増しているのでしょう。多くのアーティストから支持されている理由がそこにあるということを、今回のお話のなかで感じました。今後のご活躍を、心よりご期待しております!

Rock oN 楽曲コンテスト2009

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