音をクリエイトし、活躍している人をご紹介するコーナー「People of Sound」。このコーナーでは、制作者の人柄が、サウンドにどうつながっていくのかに注目。機材中心のレポートから少し離れ、楽しんでお読み下さい。前回の第31回目 作編曲家 田辺恵二さん【前半】に続き、予告通り、今回の【後半】では、田辺さんと約20年ぶりに共同作業を行ったというCharaさんが登場。お二人が出会った頃のお話、再び共同作業を行った時の模様、そしてCharaさんの活動の現在についてお話をお伺いしました。

2014年2月5日取材

アルバム「JEWEL」からひも解くCharaさんの家族/音楽愛

Rock oN:前回の田辺さん取材時に、Charaさんと久しぶりに作業されたということをお伺いしまして、田辺さんからCharaさんをご紹介頂く形になりました。田辺さん、ありがとうございます! 今日はお二人に同席して頂き、お話をお伺いしていこうと思います。よろしくお願いします。まず、Charaさんに質問ですが、昨年11月にリリースされたアルバム「JEWEL」についてお聞かせください。

Charaさん(以下 Chara):「JEWEL」はセルフカバー・アルバム集なんですが、私は常に新しい物を作りたいと思うタイプなので、最初はセルフカバーをやりたいと思ってた訳じゃないんです。ただ、新しいレコード会社に移籍するにあたり、レコード会社の方から今回のようなアイデアの提案がありました。これまでCharaの曲を聞いてくれてた方でも、普段の生活の中で少し音楽から遠ざかってしまった人に再び手に取ってもらいたいという想い、そして、これからCharaを聞いてくれる若い人への、今現在のCharaってどんな感じなのかをわかってもらうChara入門編というか、そういうものを作ろうということでした。

Chara : 私も移籍した以上、ファミリー感というか、レコード会社スタッフと一緒に作るという意味を大切にしたいし、その関係性の中にもいいグルーブを作りたかったので、話し合いの中で、セルフカバーはいいアイデアだなと思ったんです。自分の曲の中からスタンダードなものを中心に選んだのですが、一度世の中に出した曲は多くの人の記憶にも残ってるので、レコーディングはどの曲も大変な作業でした。でも、こういうタイミングがないと自分の音楽人生を振り返る機会もなかなかないので、やってとても良かったと感じています。

Rock oN : アートワークに愛娘SUMIREさんも登場されていますね。このアートワークに込められた意図はあったんでしょうか?

Chara : 撮影には、以前からよく子供も連れて行って、ファミリーフォトを撮ってもらってたんです。今回もそういう感じで写真を撮ってたんですが、今回、神秘的な感じにいい写真が撮れ、「ちょっと見て、よくない?」という感じになって、

Rock oN : もともとジャケットに使うことを想定して撮影したんじゃなくて?

Chara : そう。最初は手だけ写すというアイデアを話してたんだけど、「これはいい写真だ。」となって。

Rock oN : 「JEWEL」からは、すごく愛を感じたんです。でも、ご家族の肖像を写してはいますが、世間一般でいう家族愛とは違う何か。家族愛と言ってしまうと、家族以外の人には閉じた世界になってしまうのですが、そうじゃなく、もっと音楽的な広がりを感じたんです。

Chara : 音楽をやることが私の人生だし、全てが音楽的に作られてるからだと思います。音楽やってる人だったら「あ~、なんかわかる気がする。」と言ってくれると思うんだけど。また、子供を持ってから言葉を発する者としての責任の意識が一層高まったし、メロディーって本当に愛だな、と最近強く思ってるんです。娘と息子は私の最高傑作です。

アルバムというかたちに込められた想い

Rock oN : 今、音楽の聞き方が変わってきていて、1曲ずつかいつまんで聞いたり、サイクルもどんどん速くなったりしますが、アルバムというものに対するCharaさんの思いってありますか?

Chara : さっき話したように、今回の「JEWEL」は今現在のCharaってどんなものなのかをわかってもらいたいという意味もあるし、また、曲順や曲間の時間なども含め、トータルとしてストーリーを描き、そこまで考えて作ってるので、アルバムという単位で聞いて欲しいと思っています。ただ、これは今時点の私が描いた作品で、時間が経ってしまうと、違った自分が描く世界が出てくるかもしれないんですけどね。

Rock oN : なるほど。

Chara : 昔は「渾身の1枚」という言い方があったけど、例えば女の子とデートする時にマイカセットをあれこれ考えて苦労して作ったでしょう?(笑)今はそういう感じじゃなくなったかもしれないけど、日常を演出してくれる音楽として、私の作品を使ってもらえればすごく喜ばしい!

『JIMOTO=KAZOKU』プロジェクト その2

田辺恵二さんが情熱を注いでいるプロジェクト「JIMOTO=KAZOKU」。【前半】で予告した通り、前半で書ききれなかった情報をさらにお知らせします!

Rock oN : 田辺さんは毎週、AKIBA伝えたい放送局で音楽番組「田辺恵二の音楽をいっぱいいじっちゃうぞ」と毎月、24時間1人MCで放送もやられてますね。 田辺:はい、ここを運営する株式会社ユー・ブイ・エヌは、ポストプロダクションの会社なんですが、2001年からインターネット放送局のはしりである「あっ!とおどろく放送局」の技術協力をやっていた会社で、PASSPO☆、重盛さと美、Wコロン、クリス松村といった沢山のタレントを輩出しました。新局の立ち上げに伴い、私は出演者として番組をやっています。

Rock oN : 「JIMOTO=KAZOKU」プロジェクトとの関連は? 田辺:NHKのかたの依頼により、あるプロジェクトを立ち上げることになりました。地元活性化のために名所や名産品、町の人気者等を紹介する番組にアイドルを組み合わせてはどうかというプロジェクトでした。ご当地アイドルというキーワードが出たので、当時、あまちゃんが流行っていたので、合体させればいいんじゃない?」ということを提案し、「全国各地のロコドルが地元の名産を紹介するミニ番組を作る。」ということになったんです。

NHKオンデマンド | 47都道府県 ご当地アイドル大特集ページは こちらで>>
田辺:それで、各県48ごとに2分の番組を作り、ご当地のアイドルグループに番組を宣伝して頂く コンセプトを作りました。その後、各グループのオリジナルの動画などもアップし、その視聴回数を競い、ランキングバトルという形でひめキュンフルーツ缶、LinQなどのメジャー勢を抑えて名古屋大須のアイドルOS☆Uが2014年度NHKオンデマンド公式キャラクターになりました。地域にもよりますが視聴数がかなりアップしたそうです。その結果、あまちゃん効果とご当地アイドルの相乗効果でNHKオンデマンドの盛り上がりにつながったのではないでしょうか。


Rock oN :そのプロジェクトで田辺さんは何をされたんですか? 田辺:まず、48組の選定です。

Rock oN :音楽の仕事からまったく離れた内容ですね? 田辺:そうですよ。全く関係ない(笑)。まず、ご当地アイドルに詳しい方から、だいたいのピックアップをしてもらったうえで(約400組)、そこから48組選出し、スタッフがアポを取りました。その選出方法はYouTubeで活動状況、パフォーマンス等をチェックしたり、ブログ、ツイッター、FaceBook等も目を通しました。その後、前述したミニ番組の撮影のために、ユー・ブイ・エヌのスタッフは現地まで行きました。

で、私はこのミニ番組のBGMを24時間生放送の中でひっそり書いたんです。もちろん番組に使う前提で。出来上がってきたミニ番組を見たNHKの方々が「この曲、みんなで歌えればいいですよね。」という感想を頂きました。このBGMは特定のアイドルの歌はのせずにインスツルメンタルという形でサックスのリードバージョン、テンポを変えたピアノバージョン、ギターバージョン、あらゆるシチュエーションを想定して色々なバージョンを作りました。

一連のキャンペーンが終わった後に改めて「JIMOTO=KAZOKU」というプロジェクトを発足し、現在調整中ですが、各都道府県のご当地アイドルに声を掛けて、順次リリースする予定です。このプロジェクトにレーベル機能を持たせるため、アウトプットとして大手カラオケメーカーとタッグを組み、カラオケ配信だけでなくイベント等を企画しています。CDを在庫としてもてない小さなグループもいるので、アメリカのデジタルコンテンツ配信システムを使ってダウンロードリンク付きのカードによる配信/課金システムの準備も行ってます。
Rock oN:大きくなりつつある訳ですね。 田辺:はい、これはNHKオンデマンド(略 NOD)初のオリジナルコンテンツなんですよ。昨年の12月1日にベルサール秋葉原で、NHKオンデマンド5周年記念のイベントが2日間に渡り開催され、そのトリとして「全国ご当地アイドルランキングバトル優勝グループ発表ステージ」というイベントを行いました。この放送に並行して、僕はAKIBA伝えたい放送局で「JIMOTO=KAZOKU PJ 史上最強のロコドル決定戦!?~24時間やっちゃいますよ」というタイトルで非公式なコラボ番組をやりました。そこにはご当地アイドルや、優勝グループのOS☆Uなどもランキング発表前に出演してもらったりして、その緊張感をリアルに伝えることが出来、「全国ご当地アイドルランキングバトル優勝グループ発表ステージ」の番組とのリンクが出来ました。

12月1日をもって2013年度NHKオンデマンドご当地アイドルプロジェクトは終了しましたが、ご好評により、新たにNHKも加わりそれぞれ「恋する地元キャンペーン」、「ご当地アイドルコレクション」として2014年度もミニ番組、ランキングバトル等を展開できることになりました。

20年ぶりの共同作業。懐かしのコンビネーション復活!?


Rock oNからKORG Volcaをプレゼント。さっそくその場で
Tweetされていました!
Rock oN : では、今回、田辺さんと久しぶりに共同作業を行われたということですが、そのお話をお伺いしていいですか? まず、きっかけは?

Chara : 木村カエラちゃんが昨年10月にリリースした洋楽カヴァーアルバム「ROCK」で、Charaと1曲演りたいと言ってくれて、STACEY Qの「Two Of Hearts」でコラボしたんです。それで、自宅でプリプロをやるにあたって誰と組んでやろうかなと思って。で、何でだっけ(笑)?

田辺 : 今なりのTwitterやFacebookを使って、自然と連絡するようになって。

Chara : そう、「久々になんかやるか!」みたいな感じになって。

田辺 : Charaのデビューアルバム手伝ってぶりだから20年以上も経ってるんだけどね。

Chara : ハ、ハ、ハ、すごい! 久しぶりに一緒にやったら、恵二、鍵盤が上手くなっててビックリ(笑)!

田辺 : 20年経ってるからね!俺はCharaが第一線で活躍してきてるのを見てるから何の違和感もなかったけどね。昔ともちろん機材は変わったけど、彼女の音楽に対するスタンスは変わってないですよ。

Chara : 私はギターやベースも弾くようになったし、そこはお互い、楽器と、より親しい友達になったということですね。20年仲良くしてれば、まあ、そこそこできるようになった(笑)。

田辺 : 20年前より「俺はこういうこと出来るようになったぜ。」っていう自負もあったよ(笑)。。

Chara : そうそう、恵二は作業が早い!色々な仕事をしてるんだろうけど、私のリクエストに対してレスポンスが早いよね。1回や2回で私が納得いかない場合でも、さらに色んな提案をしてくれる。

田辺 : こっちも、Charaが持ってるイメージに食らいつきたいというか、形にしてやりたいという思いがありましたから。さらに、化学反応じゃないけど、一緒に演ってる意味を残したいと思うし。

Rock oN : Charaさんは色んな方々と共同作業されていますが、田辺さんならではの部分というと?

Chara : カエラちゃんのアルバムでは、Charaがプロデュースをするという前提での作業だったんだけど、恵二に加わってもらって「懐かしのコンビネーション復活」という感じで、スムーズに、自然に作業できました。サウンドプロデューサーをやれる力量がある恵二がマニュピレーターとして参加してくれたので、それはレベルが高いよね。「黒帯」級だと思うよ!

田辺 : 打ち込みだけじゃなくて、「次は歌録りだからマイクをセッティングしよう」とか、「次はドラムを録ろう」と、色々進行したり。昔だったら、この作業からそれには続けて出来ないといったことが、今なら技術のおかげで出来るようになってるので、そこも自分の重ねてきた経験から提案して。

Chara : そうそう、コーラスを仮で録ったけど「雰囲気いいからこれでもいいじゃない。」と思うこともあるし。今だとクオリティあるものが自宅でも録れるしね。「仮で歌ってみたけど、今のテイクよかったよね。でも、録ってないよね??」と聞いたら、恵二が「録ってあるよ!」と助けてくれる場面もありました。

田辺 : そう思ってたから、いつもちゃんとおさえて録ってたです(笑)。


Rock oN : コミュニケーションの良さもあって、テンポよく作業が進んだんですね。

Chara : 恵二はマメ。だからきっとみんなに愛されるというか、現場に呼ばれる理由があるんだろうし、「黒帯」なんだよ!

田辺 : 20年やってこれたからね(笑)

音楽の持つ神秘的な力を信じる。

Chara : 私は楽器も色々弾くし、音作りにすごく意見を持ってるし、それを当たり前だと思ってやってるから、単にかっこいいだけの音じゃだめで。例えば、多少アナログシンセのことも自分で言えないとだめじゃん。男性って技術用語って詳しいけど、私はそういうのはだめなので、伝える表現として、例えば、「あそこで寂しそうに座ってるイスみたいな感じにして欲しい。」というような表現で伝えるんだけど、音楽やってる人は「OK!」ってわかってくれるんだよね。

田辺 : 半分はわるし、半分はわかんないけどね(笑)!! でも、そういう伝え方がCharaの音楽の良さにつながっているということを俺は知ってるからね。

Chara : 最近思うのは、便利になったけど、その楽器では本来出ない音域も出せたりする訳で。「それってどうなんだろう?」と考えることもあります。最近よくアナログレコードを聞くんだけど、昔のレコーディングって、すごく限られた特別な人しかレコーディングスタジオで録音できなかった訳で、本物のいいものをちゃんと聞いたうえで、新しい機材を使う方が絶対にいいと思います。コンパクトに色んなことができるようになった事自体はOKなんだけど、基礎がしっかりしてたから素晴らしいことが出来てた、ってことを知ったうえで面白い事をやる。そのほうが、もっと面白ものが出来るんじゃないかと思います。便利な方ばかりに進むんじゃなくて、色んな価値観が共存すべきだよ。

若いエンジニアさんが生録音の大切さを知らなくなってきてるのも、なんだか残念だし。私は日本一リップノイズが多い女性シンガーなんだけど(笑)、それが自分の歌のグルーブになってるので、録ってくれるエンジニアさんの存在ってとても大事なんだけど、やっぱり、中堅以上のキャリアある人に落ち着いてしまうのではちょっと残念。才能あるエンジニアさんはいつも探してるので、若い才能ある人に出会えたらぜひやってみたいと思ってるんです。

Rock oN : そういう失われつつある価値観の大切なことを、世の中に伝えるパワーがあるCharaさんみたいなアーティストの皆さんに発信して欲しいです!

Chara : 家の中でちゃんとスピーカーから音を出して聞くことも少なくなってるようだしね。

田辺 : 音楽やってるけど、家にスピーカーがないという人も多いと思うよ。

Chara : みんなライブに来るのは好きなんだけどね。ちょっと残念だよね。

Rock oN : Charaさんの今後のご予定は?

Chara : 今年は割とシンプルなので、淡々と続けます(笑)。



Charaさんの最新情報は
オフィシャルサイトを チェック>>

Rock oN : では、最後にこのサイトを見て下さっている若いクリエーターの皆さんにメッセージをお願いします!

Chara : もちろん音楽を作る人の中には、みんながやってることを上手にやって人に喜ばれる、という役割もあるんだろうけど、私は、色んなタイプの音楽をやる素晴らしい若い人が沢山出て来て欲しいと思ってるし、私の周りのミュージシャンともよく「こういう人が出て来た」と話してチェックしてるんです。最近、音楽業界って絶望的とはいかないまでも暗い話が多く出てくるけど、私は、音楽って神秘的な力を持っていると思うし、便利な機材のこともいいと思うけど、「いい音が染みるような感情」を感じ取れる感覚を育てる、というのも大事で、やっぱり音楽には作る人自身の感情が込められてないといけないと思うんです。さっき、アナログレコードの話を例に出して話したけど、その感覚をもった上で、機材を使いこなしていけば、もっと面白い音楽が出てくるんじゃないかと思います。

Charaさんのレコーディング前のお時間にスタジオにお邪魔して、終始にぎやかな雰囲気でのインタビューとなりました。Charaさんと田辺さん、旧知の間柄ということもあり、「最近どう? 何、聞いてる?」とお互いに言葉を交わすような、まるで同窓会のような雰囲気でインタビューの時間が流れました。後半に話された、Charaさんからの「音楽の本質の大切さ」への言及。あくまでも穏やかな語り口でしたが、「音楽をやることが私の人生」というCharaさんの音楽に対する真摯な姿を垣間見た気がしました。


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