2015年8月初頭。東京ビッグサイトで開催されたMaker Faire Tokyo 2015。私IH富田はプライベートで遊びに行くも、Maker達の作品や人となりにすっかり魅了されてしまった。
数ある出展の中でも興味を持ったものの一つがこの度インタビューまで行ってしまった『Dm9records』の活動でした。
※Dm9recordsによるMaker Faire Tokyo 2015 での展示。(撮影協力 by create_clock )
Dm9recordsは「Open Source Hardware」の観点でDJプレイやクラブイベントに必要な機材を全部自分たちの手で作り出そうというコンセプトのネットレーベル集団。Rock oNユーザーならミュージシャンのインディーズ活動やネットレーベル活動のことはよくご存知でしょう。同じようにハードウェアでもインディーズのネットレーベルが存在するのです。
その活動内容の謎さやKit販売されている製品の面白さ。その他様々な疑問をメンバーの一員である hsgw 氏へのインタビューを行いました。
◉hsgw 氏 (Dm9records) インタビュー
Rock oN IH富田(以下略 R):お話しさせていていただくのはMaker Faire Tokyo 2015以来となります。よろしくお願いします。
hsgw 氏:よろしくお願いします。
R:まず、今回初めてDm9recordsの事を知る人へレーベルの紹介をしていただけますしょうか
hsgw 氏:Dm9recordsの公式Webサイトにも書いてあるんですが、
…という活動をしています。「クラブで使えるものを全部自分たちで作ろう」ということで、DJコントローラーや音楽系機材、光るペンダントに照明。インスタレーション機材なんかを作っています。
R:音響機材だけではないんですね。それは特定のアーティストのために作っているんですか?
hsgw 氏:いえ、DJやクラブで遊ぶ人みんなが楽しめるようなものを目指しています。
R:ネットレーベルという言葉がありました。楽曲やゲームなどソフトウェアならよく知られていますが、ハードウェアを扱うレーベルというのは面白いですね。元々はどうやって始まったのでしょうか?
hsgw 氏:2009年くらいの話になります。うちの発起人というかリーダーにtkc_exp という者がいるのですが、まず彼と僕がネットで知り合って、ブレイクコアや現代音楽などの趣味で意気投合しました。当時から二人とも電子工作をしていたのですが、身内のコンペで共作しようということになりまして。始めにLED CUBE(LEDを立体に配線して光らせるもの)を作ったんです。tkc_expが企画した電子工作&DJ&現代音楽のコラボイベントで展示しましたよ。
R:ニコニコ動画にあるものですね。ただ作るだけではなくて最後に作り方をレクチャーしてるところが今の活動に通じていますね。
hsgw 氏:はい。このニコニコ動画に熱心にコメントをくれる人がいまして、それがtkc_exp と共にリーダーをしているノロやまだ でした。こういう感じでメンバーが増えていって、いまは合6名のメンバーで活動しています。
R:なるほど、自然につながっていった仲間なんですね。
(※ノロ山田 氏作品。オリジナル・レーザスキャナによるレーザーショーとDJの同時プレイ。Ableton Live + Max for Liveでスキャナを制御している。画面右上はCGではなく実際のレーザーによる投影)
◉製品について
R:メンバー全員で一つの製品を作っているのですか?
hsgw 氏:製品開発は雑談から始まることが多いです。誰かが「○○に興味がある」とか「作ってみたい」って言い出して、その人が中心となって他メンバーが持っているスキルを貸すという感じです。
R:Dm9recordsの製品は全てKit販売ですね。完成品は販売しないんですか?
hsgw 氏:完成品は売らないですね。僕らはDJやVJにハンダ付けをしてもらいたいんですよ。実際にやってみたら面白いよ、簡単だよってことを伝えたい。ギターだとアーティストモデルや至愚ネイチャーモデルってあるじゃないですか。あんな感じでアマチュアDJも自分が使いやすい自分モデルってものを持てればいいと思うんです。僕らはKit販売もしてるし、公式Webサイトで回路図も公開しています。ちょっといじれるようになれば自分モデルも作れるようになります。
R:あ、確かに販売しているKitのWebページで回路図のpdfが落とせるようになってますね。
hsgw 氏:オープンソースハードウェアでハードウェアをリリースしています。
R:この記事を読んでいる多くの人が電子工作をしたことがないと思うのですが、hsgwさんの意見として自作の魅力は何だとお考えですか?
hsgw 氏:自作の一番いいところは、人とは違うもの、自分と合ったものを作れるところだと思います。例えばTRAKTOR DJコントローラーやパッド型のMIDIコントローラーなんかは、市販品でよくある大きくて多機能なものでなくてもいいかもしれない。もしかしたらボタン4つ並んでいたらじゅうぶんだって人もいるかもしれないですよね。その分小さくなるから持ち運びもラクだし。その逆にツマミまみれの巨大なコントローラーが欲しい人もいると思います。
R:とはいえ、これまで音楽を作っていた人がいきなり電子工作を始めるとなるとハードルが高いような気もしますが。
hsgw 氏:電子工作に限らず、今は昔ほど物作りって難しくないんですよ。昔ならドリル買ってきて、材料に穴開けて、みたいなことをせっせとやらなきゃいけなかったけど今はレーザー加工機を使えば一発で複雑な形を切り出すことができる。3Dプリンタもありますよね。そういう道具を買うお金やスペースが無くてもFabCafeやFabLabのように簡単に工作機器を使えるシェアスペースが日本中でできているのでそこを利用すればいい。近くにFabが無かったとしてもdmm.makeのような、データを送ったら物を作って送って来てくれるサービスもあります。いまやアイデアだけで誰でも物が作れる時代です。
・FabCafe (http://fabcafe.com/tokyo/)
・FabLab(http://fablabjapan.org/)
・dmm.make(http://www.dmm.com/dmm-make/)
・まとめサイト http://matome.naver.jp/odai/2138753441258316101
R:テクノロジーの進化によって、アイデアだけでだれでも作れるというのは今の音楽制作シーンとリンクしますね。
◉これからの展望
R:これから新作のリリースは予定は?
hsgw 氏:新製品の『k4b4 mk2 Tiny USB-MIDI Controller Kit』を発売したばかりです。これはツマミ4つとボタン4つのシンプルなMIDIコントローラーになります。(※スイッチサイエンスにて委託販売中 https://www.switch-science.com/catalog/2394/)
それからEURO Rackの半分の高さの小型モジュラーシンセの「ハーフユーロラック(仮称)」っていうのを考えてます。
R:独自規格のモジュラーシンセって(笑)これは期待しちゃいますよ!Dm9recordsの製品は実際に3BandアイソレーターやMIDIコントローラーを触らせてもらいましたが、実践でガッツリ使えるクオリティの高さに私のお墨付きを付けたいくらい。ハーフユーロラックは完成したらぜひ教えてください。欲しい人は沢山いるはずです!
hsgw 氏:ハーフユーロラックシンセは最初、サンプラーやオシレーターから作ろうと思っています。ラックは木を使ってできるだけ安く作りたいですね。
R:ではDm9recordsの今後の活動内容は?目標などあるのでしょうか?
hsgw 氏:個人的にはDJやクラブイベントで必要な物を全部自作で揃えたいです。ターンテーブルまで。Dm9recordsとしてはMake Faire などのイベントでKitの販売を続けていくと思います。そうやって「実際に使える物が自分で作れるんだよ。」ということを発信し続けたいです。
R:DJやプレイヤーが気軽に自分専用の機材を作る時代ですか。おもしろいですね。
hsgw 氏:理想としては、多くの人が物を作る技術について何も知らなくてもMIDIコントローラーや楽器が作れるような世の中になってほしい。絵を描いたら物ができあがるようなそんな技術がもう生まれているし、普及も始まっているんです。好きなものが自分で作れる事は幸せだと思います。
R:そうですね。hsgwさんと同じ気持ちで、好きな曲を作りたいと思って音楽制作を始めた人がこの記事を読んでいると思います。では最後に読者のみなさんへ一言メッセージをお願いします。
hsgw 氏:工作は難しくないのでぜひ挑戦してみてください。どこかでお会いしましょう。
◉最後に
SKYPEでRock oNオフィスとhsgw 氏の自室を結び行われたこの度のインタビュー。DJとしてまたハードウェア音響機器の開発者としても独自の活躍を続けるhsgw 氏の物作りへの思いが伝わった2時間弱でした。
自分にしか生み出せないものを作りたいという思いは、電子工作も楽曲制作もそのマインドに変わりはないでしょう。Dm9recordsはそういう思いから出来上がった作品をKit販売するだけでなく回路図をWebで公開して組み立て方のアドバイスも掲載しています。これはいわば楽曲の楽譜やDAWのデータをシェアしているような状態です。Dm9recordsはオープンソースハードウェアの原点であるシェア精神に溢れたオープンマインドな集団だと私は感じました。
アンダーグラウンドで進化していたハードウェアとソフトウェアが結ばれ芽吹く音を私達は聴いています。そして音楽シーンに新たな表現が華開き、大輪を咲かせるその時を私達が自らの手で作っていける喜び。「好きなものが自分で作れる事は幸せ」というhsgw 氏の言葉でこのインタビューを締めたいと思います。
Writer IH富田
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