R:まず最初に貴重な時間を設けていただきありがとうございます。
また私個人がRME HDSP9632のユーザーとして、今も現役で使い続けており、開発を続けていただいていることに感謝します。
M:こちらこそよろしくお願い致します。
R:では最初にマティアスさんの幼少期について伺わせてください。過去のインタビューでは、技術者でありライターであり、そしてミュージシャンでもあると伺いましたが、どのようにそれらの技術を身につけられたのでしょうか。
M:それは簡単です。10歳の頃に、部屋の中で自宅の内線みたいなものを作ったのです。盗聴とは違いますが自宅のTVに隠したりして使ってましたよ(笑)。音楽も当時家ではオルガンを弾いていました。その後学校に入ってエレクトロニクス科の勉強を行い、放課後はTV修理などの技術資格をとるために3年半の勉強をする傍らで、バンドではドラムを叩いてました。そういう活動の中で記事書きのアルバイトもしながら、その後リペアマンとして就職することができました。楽器店でのリペア業務を中心に行う中で、これらの様々な要素が関連性をもったまとまりを持ってきて、RMEとしての業務が始まったと言えます。もう一人の創業者であるラフル・マンネル氏と出会ったのもその頃です。
R:ラルフ氏とは雑誌の記事を通じて知り合ったんですよね。雑誌のタイトルは?
M:『ELRADIO』、日本でいう『無線と実験』のようなマニア向け雑誌ですよ。そのほかにCTというコンピュータ雑誌にも寄稿していました。
R:初期メンバーであるマーティン・カースト(Martin Kirst)とウベ・カーストのカースト兄弟とも雑誌を通じて知り合ったと聞きました。マティアスさんとMaxさんは日本でも大変有名ですが彼らについて簡単に紹介いただくことは可能ですか?
M:そうですね、彼らとの出会いはPCIカード試作品を持ってきたことでした。マーティンはチャーチオルガン奏者でありエレクトロニクスの専門家、そしてFPGAプログラミングの専門家でありVHDL言語で世界的なエンジニアと言えます。ウーバーもその一人だけど彼は何も演奏しません。(笑) PCIカードやビデオストリーミングの専門家として、コンピュータが遅い時代においてそれらのデバイスは大きな役割を担っていました。
R:そういえばRMEという会社はその開発メンバーと世界各地に点在するSynthaxという組織において構成されています。このようなユニークなビジネススタイルのメリットはどのような点でしょう?
M:ネットワークでしょう。人数が増えるほどコミュニケーションの疎通は問題があるので、今のスタイルがもっとも効率が良いと考えています。重要なポイントとして、RME自体どこかの会社に皆が集まってではなく、同じ目的を持った開発メンバー各自がそれぞれすきな場所で仕事をするようなグループなので。
R:とても特徴的ですよね。やはり組織化を進めるとコミュニケーションの壁を感じますか?
M:通常の組織だとセールスからのプレッシャーがあり、RMEのように10年前の製品のドライバーを開発することはお客様の買替を先延ばしするわけで、ありえないことです。その点RMEは開発者のグループであり、ディストリビューションサイドのプレッシャーを受けずに開発者が正しいと思ったことができます。お金というよりはレピテーション、評価をお客さんからいただくことが重要だと考えているのです。
例えばあなた(インタビュアー)が使っているHDSP9632、昨日MicrosoftからWindows10がリリースされましたが、そのOSでも動きます。他のメーカーに真似できませんよね? 私たちはこの組織でとてもよく機能できています。
R:ユーザーとしてはとてもありがたい話です。それでいながら市場にリリースされるRME製品はとても魅力的でセールスにおいても成功の連続のように見えます。実際には苦労した点や経営上の課題などあるのでしょうか?
M:例えば部品の調達ができなくて、半年潰してしまったら他の製品にシェアをとられてしまったり、問題はあります。しかしRMEは今流行っているから、主流だからといって取り入れるようなマーケティング的な発想ではなく、お客さんたちが何を求めているのか、ときにそれが先を行き過ぎて伝わらないこともあるかもしれませんが、そのスタンスを維持して作っているので、お客さんがその瞬間は疑問に思っても、時が経って落ち着けば理解してもらえるプロダクトを輩出し続けている。それが今の成功を示しているのではないかと思います。
R:開発者メインと聞くとテクノロジーファーストにもなりうると思うのですが、皆さんのカスタマーファーストな姿勢が今の成功を作っているんですね。
M:そうですね、ユーザビリティは最も重要なことだと思っています。
R:では新製品のBabyface Proについて伺わせてください。以前のインタビューで同製品のフォーカスポイントをMaxさんに聞いたところ『長く使えること』だとお答え頂きましたが、マティアスさんもそこは同じ意見でしょうか?
M:開発の立場で言わせてもらえれば旧Babyfaceよりハードウェア面で全てにおいて『優れている』ことですね。今ある技術における最高のモデルを心がけて制作しています。もちろん旧BabyfaceもドライバーはFireface等と同じものなのでユーザーはずっと使うことができます。
R:後継機種としての特徴の中でRME独自技術であるSteady Clockの第三世代も発表されていますね。
M:ええ、初代Steady Clock1は、デジタルPLLとアナログPLLのコンバインでした。Fireface UFX開発時にAllデジタルのPLL機構を作り今後の製品に使っていこうと思っていたのですが、UFXに積まれたAD/DAチップでしか使えないことが後でわかり、Steagy Clock2はUFXのみしか使えなかったのです。
そこで今回Babyface Proを作るにあたり、様々なAD/DAに対応できるよう、デジタルとアナログハイブリッドに戻しつつ、より抑制の性能を上げられるよう再チューニングしたSteady Clock3を初めて導入することができました。
R:AD/DAのチップも話題になりましたが、昨今の日本の『ハイレゾ』市場はどう捉えていらっしゃいますか?
M:日本は極めて特異なマーケットでだと考えています。DSD自体は新しいものではなく、何年も前から世界中から利用可能であったにもかかわらず他の国では忘れ去られており、日本だけがリバイバルしている状況です。実際のところDSDを再生できるアンプも日本にたくさんありますが、実際にそれを使って再生するコンテンツを考えても、また対応するためのAD/DAチップのコストや消費電力、それに見合うベネフィットがあるかと考えるとRMEとして踏み入るメリットはないですね。RME BabyfaceProは消費電力的にも様々な調整を行っていますからね。
失礼な言い方ですが、日本では使わないけど対応していることがステータスで、実際にはメインで使う性能があることより、それ以上に『対応している』ことが重視されているように思えます。
R:お時間も迫ってまいりました。締めに向かってRMEの製品開発ポリシーについて改めてマティアスさんにお答えいただけますか?
M:はい、マーケットサイドの要望で何かをつくるのではなく、開発スタッフの中で『こういうことがしたい』と発想があり、それに皆が賛同すれば全員のエネルギーを結集して作りあげることですね。
RME Fireface800もそうですが、当時Firewire800対応IFがなく、市場も求めていなかったところに彼らが作りたいという要望から出てきて製品化が実現しました。Fireface UCのようなプロフェッショナルが本当に使えるUSBのIFもそうです。USBが業務レベルに耐えうるという発想も当時市場にはありませんでした。。
でもそこにアイデアがあって皆が賛同したら、ものすごいパワーになって実現していく。そういったアイデアのきっかけをもっとも大事にしていますね。自分たちで作った製品は皆家でも使っています(笑)
R:では最後に、マティアスさんのRMEライフでもっとも感動したことはなんでしょう?
M:Let me think…(しばらく考えたのち)、2003年にギリシャのアテネで行った初めてのワールドワイドミーティングですね。63カ国のディストリビューターが一同に会したことです。世界的なブランドになったことを実感できたことはとても感動的でした。
R:63カ国! すごいですね。この先70、80、いずれ100となっていくようにRMEユーザーとして成功を祈っています。今日は貴重なお時間をありがとうございました。
M:こちらこそ、ありがとう。
Writer : スティーブ竹本
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